9月3日の北朝鮮による6度目の核実験を受け、「対話と制裁の並行」を繰り返し強調してきた文在寅政権の北朝鮮政策がターニングポイントを迎えている。大統領は「最強の対応」を注文し、国防部は「斬首作戦」部隊の創設を公にした。専門家と共に文政権の北朝鮮政策の現住所を探った。(ソウル=徐台教)

文大統領は「最高に強い応酬」を指示

今年5月に発足した文政権の北朝鮮政策は「北朝鮮を対話に引き出すまで圧迫(制裁)を続ける」というものだ。具体的には「核・ミサイル問題の対話は米朝が、人道的事案の対話は南北が行うが、朝鮮半島の未来は韓国が主導的に決めていく」基調だ。6月末の米韓首脳会談を通じ、米国とも合意を得ていた。

だが「ICBMに搭載するための水爆実験に成功した」と称する北朝鮮により、これが根幹から揺らいでいる。8月17日に文大統領みずからが「レッドライン」と称した「ICBMを完成させ、そこに核弾頭を搭載し武器化する」領域に北朝鮮が肉迫したためだ。

文在寅大統領NSC
北朝鮮の核実験直後の3日午後、NSCに臨む文在寅大統領。青瓦台HPより引用。

核実験直後の3日午後、大統領主宰の下で開催されたNSC(国家安全保障会議)の冒頭で、文大統領は「とても失望し、怒らざるを得ない」と北朝鮮を強く非難し、「北朝鮮の挑発を座視しない」と決意を示した。

その上で「ICBM級ミサイルの発射と核実験など相次ぐ北朝鮮の挑発に対し、国際社会と共に最高に強い応酬方案を立てていくこと」を指示、また「北朝鮮を完全に孤立させるために、国連安保理による制裁決議推進など、あたゆる外交的方法を求めていく」とした。

実は文大統領は、核実験に先立つ9月1日の深夜に米国のトランプ大統領と約40分間電話会談を行っていた。

8月29日のIRBM(中距離弾道ミサイル)「火星12」の発射実験を受け持たれたこの席で、両大統領は「北朝鮮に対し最大限の制裁と圧迫を加えることで、北朝鮮の挑発を抑制し、北朝鮮を対話の場に引き出し北朝鮮核問題を平和的に解決する認識を再確認」していた。この時まで「対話と制裁」基調は堅調だった。

それが公開された3日のNSCでの発言では「北朝鮮の核施設とミサイルを無力化することのできる韓国軍の打撃能力を誇示し、米韓同盟の次元で米軍が保有している最も強力な戦略資産を展開する方法を協議する」とまで踏み込んだ。文大統領は「対話」という言葉を一度も発しなかった。

「斬首作戦」部隊を12月1日に創設

これに呼応するかのようなインパクトのある発言があった。

聯合ニュースによると4日午後、宋永武(ソン・ヨンム)国防部長官は国会の国防委員会の席で「米韓連合戦力で、北朝鮮の戦争指導部に対する『斬首作戦』が可能か」という質問に対し「概念を定立中だが、今年12月1日付けで部隊を創設し、戦力化できるだろう」と答えた。

また「来年末くらいには『斬首作戦』能力を備えることができるか」という質問にも「そうだ」と続けた

マティス米国防長官と宋永武韓国国防長官
8月30日、ワシントンDCの米国防総省でマティス国防長官と会談する韓国の宋永武国防長官。宋長官はあくまで参考意見としながらも、戦術核の再配置も切り出した。国防部より引用。

「斬首作戦」とは、有事の際に金正恩氏をはじめ北朝鮮の首脳部を排除する計画のことだ。2015年に作成された米韓合同の「作戦計画5015」に含まれる。北朝鮮による先制攻撃からの全面戦に備えた既存の「作戦計画5027」には無かった、北朝鮮が核兵器やミサイルを用い攻撃するというより具体的な状況に対応するものだ。

これを可能にするのが「3K」と呼ばれる三つの軸だ。北朝鮮軍の状況を判断し打撃を加えるための「キル・チェーン(Kill Chain)」、北朝鮮のミサイルを迎撃するための「韓国型ミサイル防衛体系(KAMD)」、そして核兵器の使用兆候をキャッチした際の「大量応酬報復体系(KMPR)」がある。

「斬首作戦」はこのKMPRの段階を指すものだ。あらかじめ北朝鮮に潜入した特殊部隊の支援を得て、首都・平壌の主要施設や核関連施設を「焦土化」し、北朝鮮司令部の無力化を目標とする。

このために韓国産の弾道ミサイル「玄武」シリーズや、戦闘機から発射するドイツ製の空対地ミサイル「タウルス」などの配備が進んでいる。この日、宋長官が明かしたのは支援用の「特殊任務旅団」部隊の新設を指す。

専門家は憂慮「プラスにならない」

従来からある作戦計画とはいえ、「金正恩暗殺計画」とも受け取られかねない「斬首作戦」を、現役の国防部長官が公の場で言及したことは軽くなく、韓国社会に波紋が広がっている。

南北関係に詳しいソウル大学平和統一研究所の徐輔赫(ソ・ボヒョク)研究教授は筆者の電話取材に対し「斬首作戦への言及は報復の意味合いが強く、対話のための制裁という『ベルリン構想』にふさわしいのか大いに疑問だ」とため息交じりに答えた。

さらに「米韓合同訓練に昨年から『斬首作戦』が含まれていたことは確かだが、この状況でことさらに部隊創設を公開するのは、南北対話に向けた緊張緩和にはプラスにならない」と評した。

また、やはり北朝鮮が専門の鄭英喆(チョン・ヨンチョル)西江大学公共政策大学院教授は「『斬首部隊』や『戦術核の再配置』、『THAAD(高高度防衛ミサイル)配備』などは北朝鮮をより一層刺激する政策だ」と指摘した。

その上で「米軍との軍事協力を強化することは、北朝鮮の挑発に名分を与えるだけ」とし、「このままの方式では何も変わらない」とした。




国防長官の発言に透ける政権内の葛藤

ではなぜこの敏感な時期に、宋国防長官の発言が飛び出したのか?

匿名を条件にインタビューを受けた政権内部に詳しい学者A氏は青瓦台内部の葛藤を挙げる。「秘書室は北朝鮮との対話を強調し、国家安保室は米韓同盟を基盤とした北朝鮮への圧迫を強調している中で、北朝鮮への対話を続けて要求する場合、米韓同盟の将来を損ねると判断したようだ」と分析する。

A氏はまた「文在寅政権に入り、北朝鮮はミサイル発射実験を9回、核実験を一回行った。両親が北朝鮮出身の文大統領が、我慢しきれなくなった可能性もある」と付け加えた。韓国のメディアでも、文大統領が「北朝鮮との対話」を口にしなくったという論調が一部に存在している。

一方、前出の鄭教授はガバナンスに疑問を呈する。「青瓦台の外交・安保ラインには外交官僚が多く、北朝鮮専門家がほとんどいない。外交的な判断だけで物事を解決しようとする一方、国防部は組織の特性上『強い応酬』に傾かざるを得ない。首脳部が双方を適切に調和させなければならないのだが、それができているか疑問だ。『斬首作戦』の強調は応酬したい軍人の感情が先走っていることを示している」と指摘した。

統一部は「政策維持」も「パラダイムの変換」が必須

文在寅政権の北朝鮮政策は今後どうなるのか?南北関係の主管部署である統一部は、差し当たって既存の政策を維持する方針を示した。

統一部の白泰鉉(ペク・テヒョン)報道官は4日、定例記者会見で「政府は北朝鮮の核とミサイルによる挑発を決して認めず、国民の生命と国家の安全保障を固く守る」としながらも「ベルリン構想などを基盤とし、朝鮮半島で恒久的な平和を構築し南北関係を持続的に発展させる努力を一貫して行っていく」とした。

韓国国防部と赤十字社が北朝鮮側に会談を正式提案 「新ベルリン宣言」を実行に

だが、こうした姿勢に苦言を呈する北朝鮮専門家は少なくない。

前出の徐輔赫研究教授は「文在寅政権の南北関係は(断絶から始まったため)、スタートから不利だったことは否めない。だが、対話に応じたくなる必要性やインセンティブを北朝鮮に提示できておらず、米国に対しても同様に米朝対話に向けた説得作業ができていない」と指摘する。

また、鄭教授は「古いパラダイムからの脱却」を提案する。「現在の局面は『挑発』と『制裁』を繰り返すという、過去の保守政権と何ら変わることのない状況だ。これを打ち破るためには、果敢で冒険的な方法を採るべきだ」とした。

具体的な案を問う筆者に対しては「できることは多くない」と前提しながらも「『韓国が朝鮮半島問題を解決する』という考えは捨てて、北朝鮮の要求と米国の要求を調節し、米朝が向かい合って座れるような環境を作ることに尽力すべき」と助言した。




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