9月1日午後、韓国の通常国会が開会した。会期は12月8日までの100日間。文在寅政権発足後はじめての通常国会では、来年度予算を筆頭に、これまで文政権が明かしてきた主要改革案がどこまで立法されるのかが焦点となる。各党の思惑をまとめた。(ソウル=徐台教)

与党・共に民主党は「積弊清算が目標」

共に民主党の姜勲植(カン・フンシク)院内報道官は1日午前、国会で記者会見を開き、今期の国会を「国会が積弊を清算し新しい韓国に向けて進む重大な旅程」と位置付けた。

同氏はまた「『悪い権力によって山積した弊断』を清算し、集権与党としての重い責任感をもって『国らしい国』を作る改革立法の推進に総力を傾ける」と宣言した。

野党に向けては「国民が見守っている。野党も新政府の政策を削り、毀損しようとせずに、合理的な代案を提示する責任ある公党の姿を見せて欲しい」と牽制した。

共に民主党は文政権の発足後、事あるごとに最大野党の自由韓国党と衝突している。同報道官は8月31日に、8月17日の臨時国会の際に与野党間で合意していた金二洙(キム・イス)憲法裁判所長の任命を自由韓国党がひっくり返したことを批判した。また、「2016会計年度決算案」の議決が31日の法定時限内に行われなかったことを「国会法の違反」と指摘した。

秋美愛代表
共に民主党の秋美愛(チュ・ミエ)代表(中央)。就任1年を迎えた。同党HPより引用。

背景には、6月19日に文大統領の「新規原発白紙化」という「鶴の一声」で決まった「新古里原発5,6号機」についての意見差がある。自由韓国党は「公論化委員会」により廃止が決定される場合に発生する損害賠償などの財源についての監査と、これらの過程が法的・行政的な手続きを遵守した上で行われるという付帯意見を決算案に含めることを求めていたが、共に民主党がこれに反対したのだった。

また、与野党間での安全保障問題における温度差も表面化している。米朝、中露などが朝鮮半島の未来を一方的に決め、韓国がそのプロセスから除外されているという「コリア・パッシング」論がその最たるものだ。

「朝鮮半島の未来を決める運転席に韓国が座っている」という青瓦台(大統領府)と与党に対し、野党三党(自由韓国党、国民の党、正しい政党)は「韓国は無視されている」と対立を強めている。

これに対し、共に民主党の秋美愛(チュ・ミエ)代表は30日の同党最高委員会の席で「野党は外交安保分野では自制して欲しい。国益の観点から超党的に解決していこう」と呼びかけた。




第一野党・自由韓国党「ポピュリズムの暴走を阻止」、安保でも対立

自由韓国党は、定期国会は「野党にとっての華」と位置付けた上で「野性味あふれる野党の姿を見せる時が来た」と意気込んでいる。31日、チョン・ウテク院内代表が明かした。

さらに「安保積弊、経済積弊、左派積弊、拙速積弊、人事積弊」という「文在寅政権の5つの新積弊」を挙げた。これを今期の国会でただし「ポピュリズムの暴走を阻止する」というのが基本的な姿勢だ。

特に安保を重視する同党は、29日のIRBM(中距離弾道ミサイル)「火星12」の発射を受け、安全保障面で政府への批判を強めている。

鄭宇澤(チョン・ウテク)院内代表
1日開催された、自由韓国党の院内対策会議。中央が鄭宇澤(チョン・ウテク)院内代表。同党HPより引用。

30日に同党の鄭宇澤(チョン・ウテク)院内代表は記者会見を開き、「文在寅政権の青瓦台は、北朝鮮安全保障政策において無責任、無能力、無認識の総合版」と批判し、以下の6つの要求を突き付けた。

▲万に一つあり得る北朝鮮の核ミサイルによる攻撃可能性に備え、THAAD(高高度防衛ミサイル)配置を今すぐに終わらせる。

▲米韓同盟を強化し、トランプ米大統領ならびに安倍日本総理と即時通話し、緊密な協力体制を構築する。

▲北朝鮮の核が完全に廃棄されるまでは、(米国からの)戦時作戦権の移管についての言及を自重する。在韓米軍の撤収などの発言が二度と出ないようにする。

▲今回の定期国会から、北朝鮮の核による脅威が終了するまで、一時的な戦術核の再配置、原子力潜水艦など、北朝鮮のミサイル挑発を防ぐための「米軍の戦略資産導入」のための積極的な議論を始める。

▲ベルリン構想、南北関係の大転換発言など、北朝鮮の金正恩までも「寝言のような詭弁」「かかし」云々と無視する「非現実的で卑屈な対話を乞うこと」を即時中断し、国際社会の北朝鮮制裁の先頭に立つ。

▲(8月26日の)北朝鮮の短距離飛翔体(短距離弾道ミサイル)を 「放射砲(多連装ロケット)」とし、その意味を矮小化した上で発表した青瓦台(大統領府)の外交安保ラインを即時更迭し、幻想的な統一観を持つ青瓦台および政府内の「80年代運動圏」に対し、強い人的刷新を行う。

見ての通り、自由韓国党は安保面で文政権との差別化を図っている。これらの要求を政府が飲むとは思えないが、国民に「安保に強い政党」をアピールしていくものと見られる。8月には韓国内に高まる核武装論をフォローするかたちで、戦略核の再配備を党論として採択している。




また「自由韓国党が国会の足を引っ張っている」という共に民主党の非難についても、正面から対立している。前出の「2016会計年度決算案」採択過程において、文政権の公約である5年間で17万4000人に公務員を増員する案における「中長期的な財政推計の計画」を求め、議決を先延ばしにした。鄭院内代表は「これは国会として真っ当な要求」と妥協を見せていない。

同党によると、現在、国会の予算政策処ではこの公約を実現に移す際に327兆ウォン(約32兆7000億円)が必要だとしているということだ。なお、8月28日に発表された2018年度予算案では3万人(中央政府1.5万人、地方政府1.5万人)のみが反映されている。

安哲秀・国民の党「闘う野党」で自由韓国党との共闘も視野に

8月27日に文在寅現大統領と大統領の座をかけて争った安哲秀(アン・チョルス)氏が代表に返り咲いた国民の党も、与党との対決姿勢を鮮明にしている。

9月1日には 金秀玟(キム・ スミン)院内報道官が「無能な与党はいつまで国民の党の肩によりかかるのか」との論評を発表した。

安哲秀
党代表に返り咲いた安哲秀(アン・チョルス)氏。「地方選挙勝利」を掲げるも、党内からは反発の声もあり、苦しいかじ取りが続く。同氏ツイッターより引用。

この中で、金二洙(キム・イス)憲法裁判所長の任命同意案が8月31日の決算国会の会期に発議すらされなかった点を挙げ、「与党は国民の党の協力が無かったからと、責任を国民の党に転嫁している。与党は必要ならば国会議長に職権上程を要請するなど、本人たちがやるべきことをしなかった」とし、「与党のリーダーシップ、戦略、疎通の不在」を指摘した。

また、「国民の党はこれまで、李洛淵(イ・ナギョン)総理の任命や、追加予算案の通過など、文政権に積極的に協力してきた」ことを挙げつつ「好意が続くと権利と錯覚すると言うが、無能と無責任がこの程度に達したというのは、図々しさが絶頂に達している」と強いトーンで非難した。

さらに「与党の院内指導部は辞任を含めた特段の対策を採るべき」とまで踏み込んだ。

同党の安哲秀新代表は、就任直後「闘う野党」を掲げ、自由韓国党と声を揃え文大統領の外交・安保政策を振南するなど、文政権との対決に闘志を燃やしている。ただ、自由韓国党との連携には慎重な構えだ。




国民の党は、40議席を有し、キャスティングボートを握る存在感には揺るぎがない。今期の国会を通じ、共に民主党、自由韓国党という「二党体制」への回帰を防ぎ、来年6月の統一地方選挙に向けた存在感をアピールしたい。「多党化」という韓国政治のターニングポイントを維持していけるかが、安代表の肩にかかっている。

正しい政党「文政権の独断を阻止」 自由韓国党とは対立

正しい政党も、他の野党と同様に対決姿勢であるが、若干趣きが異なる。党としての立場、ビジョンそして目標を明確にしている点が特徴だ。

同党の金世淵(キム・セヨン)政策委員長は31日、「定期国会を通じ『ただ国民だけを考える政党』になるという意味と『国民の選択を受けるただ一つの政党は正しい政党だけ』という価値」を表明し、「101個の重点方案を積極的に推進してく」と明かした。

その上で党の「三大目標」として「文在寅政府の独断防止」、「生きがいを感じられる韓国を作る」、「『国民と共に』作る民生法案」を掲げた。

さらに「安全第一の韓国」、「正しい安保、保勲」、「社会悪根絶法」、「正しい住居福祉」、「影の無い温かい共同体」など10の実践分野を挙げた。

劉承旼
安保危機の高まりを受け、8月31日、同党の指導部は板門店を訪問した。写真は大統領候補だった劉承旼(ユ・スンミン)議員。同党HPより引用。

特に「文在寅政府の独断防止法」では、人事、法曹、原発、安全保障、財政という重要分野の決定において、野党の参加ならびに国会の権限強化を求めており、強いけん制を行いたい姿勢を明らかにしている。

また、同党を語る上で欠かせないのが、自由韓国党との対立だ。セヌリ党という「母体」である自由韓国党の洪準杓(ホン・ジュンピョ)代表は、事あるごとに正しい政党へラブコールを送っている。8月30日には両党の議員が合同で政策会議「開かれた討論、未来」を発足させた。

だが、同党の基本姿勢は「拒否」だ。29日にも洪準杓代表に対し「本人にとってはラブコールかもしれないが、言われる方にとっては暴力だ。いい加減に目を覚ませ。反省して(自由韓国党の)革新からしろ!」強烈な論評を発表している。

正義党「国会は恥ずかしい権力集団のまま」 ろうそくの精神を喚起

文政権と近い立場の正義党は、1日午後、国会開会に先立ち国会で「ろうそく民心履行、定期国会決議大会」を開いた。

李貞味(イ・ジョンミ)正義党代表
1日、正義党が開いた「ろうそく民心履行、定期国会決議大会」の様子。前列左から二人目が李貞味(イ・ジョンミ)正義党代表。同党HPより引用。

その中で「昨年11月、100万のろうそくは『朴槿恵退陣』と『これが国か』というプラカードを共に掲げた。朴槿恵は結局、罷免されたが『これが国か』という問いにはまだ堂々と答えることができない」との現状認識を示した。

そして「ろうそく市民の質問は『これが国会か』に変わりつつある」とし、国会の現状を嘆いた。

「国政ろう断の同調者たちが依然として一方を大きく占めている20代(2016年~2020年)国会は、清算の対象であり、清算されるかもしれないという恐れが国会を弾劾訴追案の可決に導いた。しかし、その後の国会は、国民の代表と呼ぶには限りなく恥ずかしい権力集団として戻ってきた。(中略)現在の国会は未来に向け進まなければならない韓国を、過去という港に縛り付ける日必要な碇の役割を果たすだけだ」と酷評した。

同党はその上で「普遍的福祉の実現の先頭に立ち、富裕層増税を通じた福祉拡大」、「選挙制度改革を通じ、国民の支持が国会議席と正確に連動する選挙制度」、「THAAD(高高度防衛ミサイル)のない朝鮮半島の平和」の実現に向けた覚悟を表明した。

専門家は「どれほどの改革法案が通過するか」が焦点 カギは国民の監視

自身も国会議員秘書官の経歴を持ち、韓国政治に詳しい西江大学現代政治研究所の李官厚(イ・グァンフ)研究教授は、「今回の定期国会で、文在寅政権の掲げる改革に関わる法案がどれくらい通過するかが、政権の今後を占うバロメーターになる」と、8月末、筆者のインタビューに対し語った。

だが「前途は明るくない」という。「文在寅政権は、政権初期の主要人事において、野党に対する強力を一切呼びかけなかった。自由韓国党はもちろんだが、国民の党や正義党にも相談をしなかったとされ、『協治』の面で不満が表面化する可能性がある」と分析する。

1日午後、丁世均(チョン・セギュン)国会議長は国会開会辞の中で「国民の77.9%が、与野党間の疎通と協治がきちんと行われていないと指摘している」という、国会が依頼した世論調査の結果を明らかにした。その上で「国会に対する国民の不信と不安を解消する第一歩が『協治』である」と強調した。

1日午前、正義党を除く国会4党の政策委員長が集まり、各党の大統領選での公約を含める関連法案を整理し、共通の事項を優先していくための実務会議を設置することで合意した。

たが、見てきたように各党の思惑は様々な上に、来年6月の統一地方選挙を控えた前哨戦はすでに始まっている。今回の国会が国民の望むものになるのか、韓国でよく言われる「彼らだけのパーティー」になるのか。筆者はこれまでと大きく変わるとは思わない。カギは、国民がいかに国会を監視するかにかかっている。




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