文在寅大統領が8月15日の光復節に行った演説は、過去と現在、そして未来を結ぶビジョンとして評価できる。未完の「真の光復」に向け、国内外に存在する課題を一つ一つ明確にすると同時に、困難な挑戦に立ち向かう勇気を「治癒と和解、そして統合」から見出すものだった。演説を読み込んだ。(ソウル=徐台教)

[全訳] 第72周年 光復節 慶祝辞(2017年8月15日、文在寅大統領)

「国家への奉仕の価値」を高める

30分、6500字にわたった演説の構成は単純だった。まず、日本による植民地期の抗日独立運動について、次に朝鮮半島情勢について、そして日韓関係について触れた後、国民への呼びかけでまとめた。

前半部の抗日独立運動について言及した部分は、失われた国を取り戻すため、当時いかに多くの先達たちの献身があったかの具体例を示すと共に、そうした独立に功ある人々(独立有功者)に国家が十分に報いていないという反省が主となった。

独立有功者と参戦有功者の医療、手当など礼遇を強化する一方、いわゆる国家有功者として扱われる殉職軍人、警察、消防士などへの支援も拡大すると文大統領は言明した。

これは「報勲で大韓民国のあるべき姿を確立し、愛国の出発点が報勲になるようにする」という一文と合わせ、現代では次第に支持を失いつつある「国家への奉仕」の価値を高めたい、政権側の立場がうかがえる。

光復節で演説する文在寅大統領
演説する文在寅大統領。落ち着いたトーンで語りかけるような演説だったが、聴衆はたくさんの拍手で応えた。筆者撮影。

また、国を取り戻したいという「独立運動の精神」が、良い国にしたいという「ろうそくの精神」となって蘇ったとする部分は、2016年10月から約5か月間続いた「ろうそくデモ」により、社会が正常化したというお決まりのレトリックだ。市民のアイデンティティを刺激するものだ。

さらに海外同胞への気配りも忘れなかった。かねてからの懸案となっていた、朝鮮籍の在日コリアンの韓国訪問問題を「正常化する」とし、「強制移住と動員」に翻弄された旧ソ連の同胞たちの傷を直視することを約束した。

朝鮮半島の原則は平和 「真の光復は分断の克服」とも

文大統領は、国際社会の耳目を集めている朝鮮半島情勢についても多くの時間を割いた。何よりも目立ったのは自力で解決するという姿勢だ。

「朝鮮半島の平和も分断克服も、私たちが自らの力で作り出さなければならない」という言及は、去る7月11日に文大統領が、6月末から7月初頭にかけての外交日程を総括しながら語った「我々には朝鮮半島の問題を解決する力も合意を導く力も無い」という一文を想起させる。

「韓国には朝鮮半島問題を解決する力がない、外交力を高める必要を実感」文在寅大統領が外交行脚を総括

ただ、当面の脅威を考えると容易ではない。核とミサイルの脅威を最大限にまで高めている北朝鮮に対しては、米軍の抑止力が何よりも不可欠だからだ。長期的なビジョンと位置付けられる。

文大統領は「平和こそ生存戦略」とし、「朝鮮半島で再び戦争が起きてはならず、朝鮮半島での軍事行動は韓国だけが決定できる」と強調した。

数日前に米国のトランプ大統領との電話会談でも「戦争NO」を語ったが、それよりも一歩踏み込んで、絶対に韓国で戦争は起こさないという強い意志を国際社会に向けて発信した。

とはいえ、この立場は1994年に当時の米クリントン大統領が計画していた北朝鮮の寧辺核施設への攻撃を、金泳三(キム・ヨンサム)大統領が懸命に止めた例からも分かる通り、韓国の大統領としては目新しいものではない。停戦から64年が経つが、朝鮮戦争は今も韓国社会に深い影を落としている。

北朝鮮に対しては「敵対視せず政権交代を目指さない」という、従来の姿勢を繰り返し伝えた。さらに「核が無くとも安全が保障される状況を作るべき」と提案し、韓国がそれを支援すると言明した。

その上で、離散家族再会行事を早期に行えるよう、対応を呼び掛けた。

この段で注目すべきは「朝鮮半島の平和定着を通じた分断の克服こそが、光復を真に完成する道」という一節だ。筆者はすぐに2年前の2015年8月15日に保守紙・朝鮮日報の一面に掲げられていた「真の光復は統一だ」という見出しを思い出した。

朝鮮日報2015年8月15日
2015年8月15日の日刊紙・朝鮮日報の一面。「真の光復は統一だ」と大きな見出しが掲げられている。朝鮮日報アーカイブより引用。

韓国にとって「真の光復=統一」こそが何にも代えがたい到達点になっていることがよく分かる。これは韓国の保守・革新陣営ともに抱く、共通の認識だという点を心に留めておきたい。

北朝鮮に関する言及には前政権からの変化もあった。昨年8月15日の光復71周年の際、やはり演説を行った朴槿恵前大統領は途中、「北朝鮮当局の幹部と全ての北朝鮮住民の皆さん!」と呼びかけた。

そして「統一は皆さん全てがいかなる差別と不利益も受けず、同等に遇され、各自の力量を思い切り広げ、幸福を追求することができる新しい機会を提供する。核と戦争の恐怖が消え去り、人間の尊厳が尊重される新しい朝鮮半島の統一時代を共に拓いていこう」と異例の言及を行った。

「北朝鮮の崩壊」を念頭に置いたこの発言は、金正恩氏への裏切りを教唆するものとも受け取られかねない、北朝鮮を大いに刺激するものだった。

文在寅政権になって、北朝鮮政策における転回があったことがよく分かる部分だ。

日本とはあくまでも前向きも「問題は日本にある」

光復節とは、日本による植民地支配が終わりを告げた日のことであるため、当然、日本についても言及することになる。歴史問題についての指摘があった。

ただ、前向きなメッセージから切り出した点に注目したい。「日韓関係はもはや両者関係を超え
東北アジアの平和と繁栄のために共に協力する関係に発展するべき」と関係を位置付け、協力強化を呼び掛けた。

その際の障害として歴史問題を取り上げた上で、問題は「歴史問題に対する日本政府の認識の浮沈にある」とした。

康京和長官と河野太郎外務大臣
8月7日、フィリピン・マニラで会談した韓国の康京和(カン・ギョンファ)外交部長官と、日本の河野太郎外務大臣。双方首脳の相互訪問、2015年の「慰安婦合意」について見解を交わした。韓国外交部提供。

韓国は「被害者の名誉回復と保障、真実の糾明と再発防止の約束という国際社会の原則」を守るとし、日本もこれを守るよう「指導者たちの勇気ある姿勢」を求めた。

日本については、北朝鮮に比べ格段に短い言及だった。これは日本との問題がさほど複雑でないということを示していると筆者は受け止めた。

治癒と和解、統合

この日の演説のキーワードは、末尾で二度語られた「治癒と和解、統合」であると筆者は見る。国家にその身を捧げた有功者を癒し、左右で対立する国民が和解し、平和・国益という目標の下に国民が統合される未来図だ。また、日韓、南北の和解とも捉えられるだろう。

韓国で最も対立が激しいのが左右の対立だ。右は保守、左は進歩と一般に称されるが、これは主に南北分断や北朝鮮を軸に定義される。

韓国の政治学者・李官厚(イ・グァンフ)西江大研究教授によると、保守層は「反共、反北朝鮮、米国に対する強い愛着心」が特徴で、進歩層は「民主主義、反独裁」が特徴だとする。

参考記事;[韓国大統領選D-2]政治学者、李官厚氏インタビュー (3)韓国民主主義の課題は「有権者から市民へ」
http://kankoku2017.jp/archives/1876

さらに保守層は、大統領として「漢江の奇跡」と呼ばれた高度経済成長を率いた朴正煕大統領を高く評価するため「産業化」支持層として分類される。一方、進歩層は一貫して民主化を掲げ成し遂げた点に誇りを持つため「民主化」支持層となる。

だが文大統領は、こうした枠組みが無意味であるとした。

そしてその根拠を「ろうそくデモ」に求めた。昨年末、朴槿恵大統領を弾劾へと追い込んだろうそくデモは、国民の8割以上が支持し、約4億円の募金が主催団体に集まるなど、左右の枠を超えた大きなうねりであった。

ろうそくデモ
今年3月10日、憲法裁判所で朴槿恵大統領の罷免が宣告された直後、喜びを分かち合う市民たち。ろうそくデモには延べ1600万人以上が参加したとされる。筆者撮影。

文大統領はこれを念頭に「国民主権の巨大な流れの前で保守、進歩の区分が無意味」とした上で、「全ての歴史には光と影がつきもので、この点で個人の生活の中に入り込んだ時代を産業化と民主化に分けることは、可能でもない上に意味のないこと」と断じた。

父・朴正煕大統領の偉業を絶対的な価値とし、反対する者を受け入れず、絶えず社会の分断をもたらした前任の朴槿恵大統領とは対極に位置する価値観だ。

1948年以降はじめて、社会の分断が縫合される時代が始まった宣言のように筆者には聞こえた。もちろん、目に見える変化は微々たるもので、期待が半分以上を占めてはいるが、今後の韓国に期待を持てる内容だった。

総評:スタートラインに立った

文大統領は演説の最後の部分で、「過去100年の歴史の決算」と「新たな100年のために共同体の価値を再び定立すること」に政府の政策基調があると明らかにした。

この点からは、文在寅政権5年が韓国、そして朝鮮半島の未来を左右する5年であるとの危機感を読み取れる。この5年に失敗した場合、「真の光復=分断の克服」も「治癒や和解、統合」は彼方に遠のくことになる。

文大統領は次いで、「新しい変化に適応して乗り越えていくことは、わが大韓民国の国民が世界で最高だと堂々と叫びましょう。大胆に、自信を持って新しい挑戦を受け入れましょう」と国民に呼びかけた。

第72周年光復節記念式典
式典の最後に行われた、植民地時代の解放を願う歌「その日が来たら」の合唱の中で、コンビニのアルバイトに扮した若者が「私たちが望む未来は、青年が明日に希望を持って、就職の心配をせず、一生懸命学べる世の中です」と言える光復節の式典は、まったく新しいものだといえる。筆者撮影。

実は筆者は、この部分を聞きながら、スッと気持ちが楽になった。周知の通り韓国の状況は楽観するようなものではない。安保状況は予断を許さず、国内でも人事面での限界が露呈し野党との対立が深まるなど、改革はスムーズに進んでいない。

だがこうした状況を「課題」と捉えるのか、「新しい100年のための挑戦」と捉えるかでは大きな差が出てくるのではないか。筆者には、文大統領が状況をうまく整理したように受け止められた。

こうした感覚は、前任の朴槿恵政権時にはまったく感じなかったものだ。朴大統領の演説は常に国民を人質に取ったような物言いだった。「現状はこんなにもよくない、私はよくやっているから、従わないと大変なことになる」というレトリックを繰り返し、不安を煽る内容が多かった。

現に昨年8月15日の演説を読み返してみたが、自身の治績を強調する内容と、父親の時代の栄光を呼び起こそうとする精神論、そして異論を排除する姿勢があちこちで目に付いた。

文大統領は就任後、「5.18光州民主化運動」の記念辞や、「故盧武鉉大統領8周忌」追悼式辞など、弱者に配慮する印象的な演説を繰り返してきた。だが、この日の演説こそが最も多くの人々に響くものだったのではないか。

演説の最中、文大統領は終始深刻な表情で、声のトーンも同様に低いままだった。この姿こそが韓国が置かれた深刻な状況を何よりも表している。とはいえ、この日の演説からは、韓国が新しい社会に向けたスタートラインに立ったという実感を強く受けた。

第72周年光復節式典2
式典は「国民の、正義がかなう大韓民国、万歳!」という万歳三唱で幕を閉じた。筆者撮影。




[全訳] 故盧武鉉大統領8周忌追悼式 式辞(2017年5月23日)

[全訳] 5.18民主化運動37周年 記念辞(2017年5月18日文在寅大統領)

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