北朝鮮による2度目のICBM発射実験後すぐ、韓国の文在寅大統領は「残るTHAAD(高高度防衛ミサイル)発射台の全基臨時配備」を決めた。韓国国民の高い支持とは対照的に中国は反発を強めている。専門家の分析を交え、中韓関係の現住所を探る。(ソウル=徐台教)

発射直後のNSCで指示も配備日程は「不明」

文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、7月28日23時41分頃にあったICBM(大陸間弾道ミサイル)「火星14型」の発射直後の29日午前1時から行われた国家安全保障会議(NSC)の席で、4項目からなる即時対応を指示した。

その中の一つが、「残るTHAAD発射台の追加配置を含む米韓間の戦略的抑止力を強化する方案を即時協議する」というもの。

現在、慶尚北道星州(ソンジュ)郡の以前はゴルフ場だった敷地に、THAAD発射台2基とX-BAND(Xバンド)レーダーが配備されている。ここに国内の米軍基地に別途保管中のTHAAD発射台4基を追加で配備することになる。

だが、肝心の配備時期はまだ未定だ。主管部署の韓国国防部内でもはっきりしない。

宋永武(ソン・ヨンム)国防部長官
7月30日、首都圏を守るパトリオットミサイル部隊を訪問した宋永武(ソン・ヨンム)国防部長官。写真は国防部提供。

3日の国防部の定例会見で文尚均(ムン・サンギュン)報道官は「(環境部の求める)小規模環境影響評価と配備は別途」と線を引いた。また、今年3月に配備された2基と同様に「野戦配置」で行われるとした。

だが、その具体的な時期を聞く韓国紙の記者に「時期を特定するのは難しい」とはぐらかした。別の記者が「小規模環境影響評価と4基の配備に関係があると聞いた」と独自の取材結果を明かし、正確な説明を迫ったが、結局日程は分からずじまいだった。

日刊紙・中央日報は、こうした混乱の理由について4日付けの記事で「政府が米国と中国、THAADの反対層と支持層のあいだで迷っているからだ」と指摘した。

なお、星州郡では今もTHAAD反対運動が続いている。これに対し政府はあくまで「(配備のプロセスを)透明に進める」ことを強調し、「住民を説得する作業を続けている」という立場を明確にしている。

THAAD配備決定を71%が肯定的に評価

韓国の世論調査会社「REALMETER」社は3日、THAADの追加臨時配備について、19歳以上の成人511人(10,134人へ質問、応答率約5%)に対し行った世論調査の調査結果を発表した。

「THAAD臨時追加配置をどう思うか」との質問への回答で、「とてもよくやった」が33.2%、「よくやった方」が37.8%と合計71.0%が「賛成世論(編注:REALMETER社の表現)」を明かした。

なお、「よくない方」は10.7%、「とても良くない」が7.7%(以上が「反対世論」)、「よく分からない」は10.6%だった。

また、政治理念別では保守層が賛成80.8%、反対が15.9%、中道層では賛成71.7%、反対17.7%、進歩層では賛成66.6%、反対25.2%だった。



さらに、支持政党別では与党・共に民主党支持層で賛成71.6%、反対17.0%、第一野党・自由韓国党支持層では賛成77.8%、反対18.4%、国民の党で賛成74.1%、反対21.6%、正しい政党賛成は86.3%、反対13.7%、そして正義党では賛成47.7%、反対38.4%と誤差の判批内だった。

これは昨年12月30日にやはり「REALMETER」社が行った世論調査の内容と大きく異なるものだ。

当時は、THAADの配備に対し「早期に行うべき」33.8%、「反対」26.7%、「次期政府が決めるべき」24.8%の順となり、半分以上の51.5%が「早期配備を望まない」という結果だった。約8か月のあいだにTHAADへの認識が変わったことがよく分かる。

中国は「撤去」を要求

韓国政府はこの急な「決定」を前もって準備していたようだ。

本紙でもすでにお伝えした通り、7月30日、韓国メディアは「米中双方との協議が済んでおり、時期は明かせないが中国側に追加配備を『通報』した」との青瓦台(大統領府)高位関係者のコメントを伝えている。この関係者は「追加配備は『大統領の決断』によるものだ」とも述べている。

文在寅NSC
29日午前1時から北朝鮮のミサイル発射実験を受け、国家安全保障会議に臨む文在寅大統領。写真は青瓦台(大統領府)提供。

さらに、同じく青瓦台側は「文大統領は26日(前々日)に、慈江道舞坪里でミサイル発射があるという報告を受けていた」と明かしている。26日から28日の発射当日にかけて、米中との協議があったものと見られる。

あたかも国民に対し「中国にも了承済み」との印象を与え、根回しの良さを感じさせたこのコメントだが、中国の反応は正反対のものだった。

文大統領がTHAADの追加配備を決めた29日、中国外交部は「厳重な憂慮」を表明すると共に「THAADの配備は朝鮮半島の問題をより複雑にするだけ」と非難した。また、7月31日、中国外交部は金章洙(キム・ジャンス)駐中大使を呼びつけ、THAAD配備の中断と既存装備の撤去を求めた。

また、韓国の通信社「NEWSIS」が4日伝えたところによると、中国国営の新華社通信は「国際時評」を通じ「文在寅大統領が下したTHAAD発射台4基の臨時配置という指示は、賢明でない過度な反応であり、波乱を呼び、韓国国民の政府に対する不信任を呼び起こし、朝鮮半島の緊張を一層高め、地域の平和安定には何ら助けにならない」と主張した。

さらに、「北朝鮮のミサイル脅威を理由にTHAADの配備を強行することは、THAADは米国のミサイル防衛(MD)システムの一環であることを認め、韓国を米国の『戦車に括りつける』ことと同様だ」と非難した。

新華社通信はさらに、韓国が採り得る唯一の解決策は「THAAD配置手続きを中断し関連設備を撤去すること」で、そうでない場合「ベルリン新平和構想は水の泡になる」と警告した。




「中国は韓国に厳しい報復・制裁を続ける」シンクタンクのレポート

こうした中国の態度を多角度から分析したレポートが7月31日に発表された。タイトルは「北京での現地調査を通じ調査した、中国の朝鮮半島安保問題に関する視点と立場の分析」。韓国有数のシンクタンク、世宗研究所で研究する鄭載興(チョン・ジェフン) 安全戦略研究所・研究委員がまとめたものだ。

世宗研究所安全戦略研究室の鄭載興研究委員。
世宗研究所安全戦略研究室の鄭載興(チョン・ジェフン) 研究委員。

筆者が鄭研究委員に確認したところによると、北京を訪れた時期は7月7日~10日頃とのこと。1度目のICBM発射実験が行われた7月4日の後で、政府に近いシンクタンクに勤める一線級の学者と個別の面談を重ねた結果だという。

全17ページにわたるレポートには厳しい内容が並ぶ。鄭研究委員の論旨は「中国はTHAADが完全に撤回されるまで、米韓に対し報復と制裁を続ける」というものだ。

根拠は前出の記事にもあった通り、「中国は米国による韓国へのTHAAD配備が、中国の対米軍事戦略の無力化のためのMD(ミサイル防衛システム)の一環と見ている」点だ。

さらに中国の立場について「韓国は対中貿易を通じ莫大な経済的な利益を得ているのにも関わらず、中国の『核心利益(core interests)』に脅威となるTHAAD配備を強行する場合、これ以上、利益を得られないようにするしかない」と説明する。

その上で「韓国には多様な経済的圧迫手段を動員し、制裁・報復の強度を高める。中国側の立場はとても頑固で、制裁・圧迫が相当期間続く」見通しと説く。

実際、2016年7月8日に韓国がTHAAD導入を正式に発表した翌月から、中国はビザ発給条件の強化や、芸能イベントの禁止などの制裁を始めた。その後制裁は拡大し続け、今も観光、自動車輸出、中国内での小売り業など広範囲で行われている。

「YTN」が3日に報じたところによると、スーパー大手「ロッテマート」は中国内に展開する112店舗のうち87店舗で営業を再開できないままで、3月からの損害は約5000億ウォン(約500億円)に及ぶという。

自動車業界も被害が大きい。「イーデイリー」によると、韓国最大の自動車会社の現代・起亜自動車の中国での販売台数は昨年比半減し、営業利益は約30%減少した。また今後は、化粧品業界に中国の制裁が及ぶだろうと予想している。




「韓国は米国の説得に乗り出すべき」

鄭研究委員は「THAAD配置はあくまで韓国固有の主権的決定であり、中国が不当に干渉するのは正しくない」と主張する。

その上で韓国政府に対し「断固として対処しながら、中国との関係を新たに模索しつつ、THAAD問題をできるだけ早く処理するのが上策」だとアドバイスする。「THAAD前」と「THAAD後」の中韓関係は異なるという認識だ。

とはいえ、韓国が独自に中国と関係改善を図るのは容易ではない。なぜなら、冒頭で述べたように、THAAD配備の根拠はあくまで「北朝鮮の核・ミサイルによる脅威が増している」点であるからだ。この問題が解決しない限り前進はない。

これを前提に、鄭研究委員は「北朝鮮の核・ミサイル問題についての米韓と中国の根本的な視点の差」を指摘する。「中国はこの問題が米朝間の『敵対関係』を発端にしていると見ている」というものだ。

このため、「米韓が敵対的な北朝鮮への認識を改めない限り、核・ミサイル問題の根本的な解決は不可能」であり、このまま事態が進む場合「朝鮮半島での『新冷戦』と『(南北の)永久分断』が現実になる」と中国側の警告を合わせて紹介している。

サインする金正恩朝鮮労働党委員長
27日、2度目のICBM発射実験にサインする金正恩朝鮮労働党委員長。写真は北朝鮮の朝鮮中央通信より引用。

鄭研究委員は同じ脈絡から、「北朝鮮が米韓に対する根本的な北朝鮮政策の変化を要求するだろう」という中国識者の予想にも言及している。

その内容は、▲北朝鮮敵視政策の撤回、▲米韓合同軍事訓練の中断、▲在韓米軍の撤収、▲朝鮮半島平和協定の締結などで、「戦争を起こさない以上、米韓はこの主張に引きずられざるを得ない」と中国側は認識しているとする。

その上で韓国の役割として「北朝鮮が信頼できる方案を米国が出せるよう、米国を積極的に説得する」点を挙げる。これをできない場合には、北朝鮮が韓国との対話に臨むことは無いだろうとの分析も付け加える。

最終的な落としどころとしては、中露が提案する「双中断」、つまり「北朝鮮の核・ミサイル挑発の中断と米韓の連合軍事訓練の中断」であるというが中国側の主張だ。

「行動対行動」という原則を中国は強調しており、韓国はこの点を真剣に受け止め、米国の説得に乗り出す必要があると、鄭研究委員は指摘している。

鄭研究委員インタビュー「どの道、選択はしなければならない」

THAAD配備の話から離れてしまったが、この問題がいかに複雑で、かつ長期的な懸案であるかを理解していただけたと思う。

だが、鄭載興世宗研究所研究委員は「THAAD配備のタイミングは悪くない」と、筆者の電話インタビューに対し明るい声で語った。その上でこう続ける。

「北朝鮮の2度目のICBM発射を受け、韓国としても対抗措置を取らない訳にはいかない。中国に対しても韓国は『国益(高まる北朝鮮の脅威)を考える場合仕方ない』という論理を展開できる。この期に及んで煮え切らない態度を取るよりも、スパッと選んで、今後に対処した方がよい。どの道、選ばなければならなかった道だ」

また、「中国が北朝鮮の核・ミサイルに対し、いかに米韓と協力的な態度を取るかが重要だが、そうでない場合には、朝鮮半島に戦略武器が配置され続けることになる。現在の朝鮮半島の情勢上『双中断』は現実的に不可能で、新冷戦の出現も十分にあり得る」と語った。その上で「韓国の役割には限界がある」と認めた。




活路は外交…8月にはARFと中韓国交25周年

韓国は結局、「G2」米中の狭間で被害を最小化し、耐えていくしかないのだろうか。北朝鮮との密な意志疎通というレバレッジ(テコ)が無い限り、そうならざるを得ないだろう。活路は外交しかない。

その点で、注目されるのが、8月6日から8日までフィリピンで行われる 「ASEAN地域安保フォーラム(ARF)」だ。米中露北をはじめ27か国の外相が集まる会議期間中、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外交部長官は15か国以上の外相と会談を持つという。

北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相会談は未だ不明だ。会談ができれば、その後すぐに控える8月15日の光復節の演説にも弾みが付くだろう。韓国の存在感をアピールし、大国間の主張を調整する雰囲気を作り出したいところだ。

だが、懸念の種は尽きない。21日から24日にかけては米韓合同演習「乙支フリーダムガーディアン(UFG)」が控えているためだ。

文在寅大統領と習近平国家主席
7月7日、ベルリンで会談した中韓首脳。韓国の文在寅大統領(左)と、中国の習近平国家主席(右)。写真は青瓦台提供。

また、その最中の8月24日には中韓修交25周年を迎える。韓国外交部は1日の記者会見で「韓中関係をとても重要視している」と述べる一方、「先のG20(先進20か国サミット)で文大統領が招請をうけているため、関連した外交的な協議を進めている」と明かしている。

韓国としては、文大統領が直接北京を訪ね、習近平国家主席とTHAAD配備や朝鮮半島の未来について意見を交換したいところだろう。だが、中国の反応は微温的とも伝えられる。

発足から100日も経たない中、文在寅政権は国際外交の荒波に揉まれている。南北の平和統一というビジョンに向けて歩んでいけるのか、その真価が問われる8月になりそうだ。

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