7月に韓国が提案していた2件の南北対話に対し、完全無視を貫いた北朝鮮。2度のICBM(大陸間弾道ミサイル)発射実験を行い、今後、国際社会とのさらなる軋轢が予想されるが、韓国は「かやの外」に置かれるのでは無いかとの危機感が韓国内で高まっている。(ソウル=徐台教)

韓国政府は「時代おくれ」?

8月1日は、今年10月4日の離散家族再会行事について話し合うとされた、南北赤十字会談の期日だった。7月17日に韓国赤十字社が提案していたが、ついにいかなる反応も無いまま時間切れとなった。

これに先立つ7月27日は、韓国の国防部が提案していた、南北軍事境界線付近で行われている南北双方の挑発行為を止めるための南北軍事当局会談の期日であったが、同様に「無視」された。それどころか、北朝鮮は翌28日の深夜に7月で2度目となるICBM発射実験を行った。

28日のICBM発射実験を視察する金正恩朝鮮労働党委員長。
28日のICBM発射実験を視察する金正恩朝鮮労働党委員長。笑顔がこぼれる。写真は朝鮮中央通信から。

まるで韓国など眼中に無いといった風の北側の対応に、韓国政府も悩みを深めている様子だ。聯合ニュースは1日の記事で「文在寅政府の外交安保担当が過去、『金正日の北朝鮮』だけを相手にした経験を基に北朝鮮政策を立てているため、『金正恩の北朝鮮に合わない』のでは」と指摘している。

確かに、現在の対北朝鮮実務ラインには、03年~08年の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時の人材が少なくない。同じ記事では政府関係者が「金正恩について分からないのは認めるが、それは韓国だけでなく、国際社会も同様だ。とりあえず対話をしなければ始まらない」と苦悩を明かしている。

韓国内では野党を中心に、政府の北朝鮮政策に対する不満が噴出している。文在寅大統領が30日から6泊7日の休暇に出たことが、政府の「無策」を象徴していると受け止められている感もある。

休暇を楽しむ文在寅大統領
休暇を楽しむ文在寅大統領

休暇を楽しむ文在寅大統領
韓国東部・江原道五台山で休暇を楽しむ文在寅大統領。現在は慶尚南道鎮海にある海軍の保養施設で緊急時に備えつつ強化を過ごしている。写真は青瓦台提供。

その根拠の一つが、トランプ大統領は安倍首相と7月31日に50分も通話したのに、韓国の大統領は休暇が終わり次第、日米首脳と通話するという青瓦台(大統領府)の発表だった。第3野党・正しい政党の李惠薫(イ・ヘフン)代表は、7月31日に「新ベルリン宣言への未練を捨てよ」といら立ちを爆発させた。

「統一しなくてもよい」コリア・パッシングへの拒否反応

1日、韓国の日刊紙「中央日報が」が掲載した「米国、『ひとつの韓国』を捨ててこそ北朝鮮の核が解決する」という題名の翻訳記事が韓国内で大きな注目を集めた。

これは7月31日に過去、05年から08年までブッシュ政権下で米国の北朝鮮人権特使を務めたジェイ・レフコヴィッツ氏が、米国の「ニューヨークタイムズ」に投稿したものだ。(原文リンク)

レフコヴィッツ氏は「1953年に朝鮮半島が休戦して以降、米国が支持してきた韓国主導の南北統一方案という現実は、もはや現実的でも実現可能でもない」と大上段から切り込む。「中国は米国が後見人となる自由民主主義の(統一)韓国と国境を接することを絶対に臨まない」と理由を述べつつ、「それでも北朝鮮の核を解決するのならば、中国を活用するしかない」と主張する。

ではどう中国を説得するのか。同氏は「米国はこれ以上、韓国主導の統一を追求しないと中国に宣言せよ」と提案する。前述した中国の憂慮を払拭しようというのだ。

さらにこの提案は韓国内でも受け入れられるはずだ、とする。「2000万人を超える北朝鮮住民の吸収負担を伴う統一を、韓国人が真に臨むのか不透明だ」というのだ。なかなか鋭い指摘だ。

変わる韓国国民の統一意識 (上)「統一は必要」が減り「分断の維持」が増加

1987年に制定された現行の大韓民国憲法では、第4条で「大韓民国は統一を志向し、自由民主的基本秩序に立脚した平和的な統一政策を樹立し、これを推進する」と規定している。

だが、米国はこれと別の道を歩むべきだとするレフコヴィッツ氏のコラムは、「韓国抜きで朝鮮半島の未来が決められる=コリア・パッシング」という、韓国の知識人層が最も嫌がる部分を刺激したのだ。

いくつかのメディアがこのコラムを引用し「米中のビッグディールで朝鮮半島の未来が決まる」と波紋が広がるや、青瓦台はあわてて火消しに走った。

韓国の日刊紙・京郷新聞は2日、青瓦台の高位関係者による「米韓の間では、充分な対話がほぼ毎日行われている。大統領が休暇後に米国と通話するから『コリア・パッシング』だというのは正しくない」という見解を伝えた。




特使派遣は「検討せず」 ARFでの南北外相会談に期待

だからといって、韓国に状況を打開する手段があるのかと言えば疑問だ。南北対話・交流の実務を担当する統一部は2日の定例会見で、「特使派遣を考えているのか」という筆者の質問に「政策の基調に変わりはないが、現在、北朝鮮側の反応が無い状況で、別の方法を検討していない」と答えた。

統一部の白泰鉉(ペク・テヒョン)報道官
2日午後、定例記者会見を行う統一部の白泰鉉(ペク・テヒョン)報道官。この日の会見はわずか3分で終わった。筆者撮影。

実は現在の与党・共に民主党は昨年9月、北朝鮮が5度目の核実験を行った際、当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領に対し、特使派遣を提案したことがある。

さらに状況が厳しくなった今も同様の声は尽きない。2日、共に民主党関係者は筆者の電話取材に対し、「特使の派遣は確かに議題になっているが、決めるのは青瓦台であり、今のところ動きはない」と語った。

先月27日、丁世鉉(チョン・セヒョン)元統一部長官はある会合に出席した際「(6月末の)米韓首脳会談の前に北朝鮮への特使を送ろうという話が政府内であった」と明かした。「北朝鮮が『これ以上挑発しない』と約束すれば米国をきちんと説得する」旨を伝える特使だったという。

また、「北側は『ベルリン構想』についても、誰かが来て説明してくれることを願っているようだ」と語った。

南北間の接触が全く無い現在、韓国が望みをかけているのが、6日から8日にかけてフィリピン・マニラで行われる「ASEAN地域安保フォーラム(ARF)」だ。

康京和外交部長官
康京和外交部長官。ARF期間中に15か国の外相と会談するとされる。写真は外交部HPより引用。

ASEAN(東南アジア諸国連合)所属国家をはじめ米露など27か国の外相が参加するこの会議に、北朝鮮からは李容浩(リ・ヨンホ)外相が出席するが、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相との間に会談の可能性がある。

韓国外交部が「推進中」という南北外相会談が実現すれば、文在寅政権発足以降、はじめてのオフィシャルな対話となる。米中の外相も参加することもあり、韓国としては事態の打開を図る場にしたいところだ。




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