28日深夜の北朝鮮によるICBM(大陸間弾道ミサイル)発射実験に対し、韓国・文在寅大統領も強い姿勢でスピーディに対応している。北朝鮮の核・ミサイル問題における韓国の存在感を高めたい焦りも垣間見える。情勢をまとめた。(ソウル=徐台教)

韓国はあくまで「ICBM級」と表現

ICBM「火星14」型が北朝鮮北部・慈江道前川郡舞坪里(ムピョンリ)から発射されたのは28日午後11時41分頃。29日、北朝鮮の国営メディア「朝鮮中央テレビ」が報じたところによると、同ミサイルは最高高度3,724キロまで上昇し、47分12秒のあいだ、998キロを飛翔した。

前回4日と同様に高角度で発射されたが、この数値は韓国をはじめ日米の防衛当局の観測とも概ね一致している。正常の角度で発射する場合には約1万キロの飛距離となり、米本土の中部(一部メディアでは東部・ワシントンまでとも)を射程に収めると見られている。

宋永武韓国国防長官
北朝鮮のICBM発射実験を受け、韓国軍の見解を発表する宋永武(ソン・ヨンム)国防長官。「南北間の緊張緩和のための、わが政府と国司亜社会の期待を投げ打つ無謀な行為で強く糾弾する」とした。写真は国防部提供。

なお、韓国軍当局は「ICBM級」という表現を使っている。これは「火星14型」がICBMを構成する要素のうち、飛距離の面を満たしてはいるものの、大気圏再進入技術を完成させた証拠がないためだ。北朝鮮メディアでは4日に続き、28日の実験でも「再突入環境で戦闘部(弾頭)の構造的安全が維持された」としている。

だが、韓国の放送局SBSは29日のニュースで、「垂直に近い角度で刺さるように落下する場合と、放物線を描いて落下する場合では再進入の角度が異なる」という専門家の分析を紹介しながら「正常の発射では大気圏を通過する際に弾かれる可能性があり、高角度での発射では再進入技術を証明するのには限界がある」という根拠を示している。

「断固として対応」NSCで強い態度 「ベルリン構想」への配慮も

発射から8分後の11時50分に報告を受けた文大統領は、29日の午前1時から1時間ほど、国家安全保障会議(NSC)を直接主宰した。

文在寅NSC
29日午前1時から北朝鮮のミサイル発射実験を受け、国家安全保障会議に臨む文在寅大統領。表情が厳しい。写真は青瓦台(大統領府)提供。

5月10日の就任以降、文大統領がNSCを主宰したのは、江原道元山で新型短距離地対艦巡航ミサイル「KN-01」の発射実験が行われた6月8日、平安北道亀城で「火星14型」の発射実験が初めて行われた7月4日に続き三回目となる。

青瓦台(大統領府)によると、文大統領はこの席で「今回のミサイル発射は東北アジアの安保構図に根本的な変化をもたらす可能性がある。様々な可能性を念頭に置いて断固として対応しながらも『ベルリン構想』の動力が喪失しないように管理する知恵が必要」と発言した。

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示唆に富む発言だ。東北アジアの安保構図の変化とは、北朝鮮がICBMを持ち米本土を直接攻撃できるようになる場合、米国の対応は変わらざるを得ず、それが東北アジアに大きな影響をもたらすということだ。

また、ベルリン構想の動力が喪失しないように、という点は文在寅政権の北朝鮮政策の骨子である「北朝鮮を敵対視せず、核問題の解決と南北関係の発展を並行させ、核廃棄と南北共栄を実現した先に平和統一を成し遂げる」という構想を損ねない前提で、対応を強化していくというスタンスだ。

文大統領はNSCで、さらに以下の4つの具体的な指示をくだした。

1. 北朝鮮の戦略的挑発に対する対応措置として、米韓連合で弾道ミサイル発射を行うなど、強力な武力示威を展開する。
2. 残るTHAAD発射台の追加配置を含む米韓間の戦略的抑止力を強化する方案を即時協議する。
3. 国連安保理の招集を緊急に要請し、強力な北朝鮮制裁案作成を推進する。
4. 北朝鮮の追加挑発に対する警戒態勢を強化する。

そしてこの中のいくつかをすぐに実行に移したのだった。




米韓合同ミサイル発射実験を実施

北朝鮮のICBM発射から一晩明けた29日午前5時45分、米韓連合ミサイル射撃訓練が行われた。韓国軍の合同参謀本部と米陸軍第8軍司令部によると、この訓練で韓国軍は弾道ミサイル「玄武-2A」を、米軍は戦術地対地ミサイル「ATACMS」を2発ずつ発射した。

米韓ミサイル訓練
東海(日本海)側で発射された韓国の「玄武-2A」(左)と米軍の「ATACMS」。写真は7月5日のもの。合同参謀本部提供。

「玄武-2A」は韓国が独自に開発した弾道ミサイル。射程距離は300キロで、韓国北部から発射される場合、北朝鮮の大部分を射程に収める。「ATACMS」は韓国の聯合ニュースによると「弾頭に数多くの子弾が入っており、一発でサッカー場4つ分の面積を焦土化できる」性能だとのことだ。

今月4日、北朝鮮が初めてのICBM発射実験を行った際には、翌5日に同規模の訓練が行われた。このため、今回の訓練が前回よりも大規模になったという事実はない。今後、追加でミサイル発射訓練が行われるかに注目したい。

THAADの臨時配備を決定

文大統領による今回の指示の中で突出しているのが、THAAD(高高度防衛ミサイル)の臨時配備を行うという点だ。

現在、慶尚北道星州(ソンジュ)郡には、ミサイル発射台2基とX-BAND(Xバンド)レーダーが配備されているが、さらに韓国内に保管中のミサイル発射台4基を配備するというものだ。これにより、当初の配備予定を実行することになる。

気になる中国の反応だが、韓国メディアでは「米中双方との協議が済んでおり、時期は明かせないが中国側に追加配備を『通報』した」との青瓦台高位関係者のコメントを伝えている。なお、追加配備の決定は「大統領の決断」だという。

韓国国家安全保障会議
7月29日午前1時から開かれたNSCの様子。写真は青瓦台提供。

また、やはり青瓦台は30日、「文大統領は26日(前々日)に、慈江道舞坪里でミサイル発射があるという報告を受けていた」と明かしている。26日から28日の発射当日にかけて、米中との協議があったものと見られる。

ただ、現地住民は朴槿恵前政権当時からの反発を今も続けている。政府は「あくまで臨時配備であり、正式配備には環境影響評価が前提となる」としているが、一度配備したものを撤収することは難しいというのが、大方の見方だ。

米国とのミサイル指針改定を協議 弾頭を現行の500キロから倍以上に

青瓦台によると、文在寅大統領は29日午前のNSC終了後、鄭義溶安保室長に対し「ミサイル指針改定交渉を即時開始するよう」指示を下した。

これは6月末の米韓首脳会談でも議題に上がっていたものだ。現在のミサイル指針は2012年に改定されたもので、射程距離800キロ、弾頭の重量は500キロまでとなっている。

韓国メディアによると、前述した韓国産の弾頭ミサイル「玄武」のうち、最大の飛距離(800~1000キロ)を持つ「玄武-2C」の弾頭を現在の倍となる1トンにする案が、今後協議される予定だったが、文大統領の指示はこの予定を早めるものだ。

さらに30日、国会の国防委員会の委員長を務める金栄珠(キム・ヨンジュ、共に民主党)議員は、 宋永武(ソン・ヨンム)国防長官と会食した際に「宋長官が米国との交渉時に、弾頭を2トン以上まで増やすよう主張するとした」と明かした。

通常兵器の場合、当然ながらミサイルの威力は弾頭の重さに比例する。韓国としては北朝鮮の圧迫を強める狙いがある。




総評:「レッドラインへの臨界点」も冷静な対応を

青瓦台の高位関係者は29日午前、報道陣に対し「現在の状況はとても厳重であり、ICBMであると判明する場合、レッドラインの臨界値に来たと言える」という見解を披露した。

7月4日の、一度目のICBM発射実験の際には、ICBMの完成が米韓の「レッドライン」と見られていたが、北朝鮮の開発ペースが予想よりも早い点と、外交の手の内を明かさない意味でも、それ以上の議論は存在しなかった。

青瓦台側がこの「レッドライン」という言葉を再び引っ張りだす意図については不明瞭だ。文大統領が示した「韓国による独自制裁」に踏み出すための理論的な布石なのかについては、もう少し見極める必要がある。

ミサイル発射からもうすぐ丸2日が経つ中、北朝鮮は米国に対し「我々に反対する軍事的冒険と超強度の制裁策動にこだわる場合、我々は既に明らかにした通り、断固とした正義の行動で応える」との談話を発表し、対決姿勢を強めている。

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一方で、韓国に向けた声明を出しておらず「かやの外」に置かれた感すらある。本紙でも繰り返してきた通り、韓国政府には韓国抜きで朝鮮半島の未来が決められることに対する、強いアレルギーと危機感がある。

北朝鮮への対応はもちろんだが、文在寅政権が踏み出す強い対応の裏には、国際社会に存在感をアピールしたい気持ちも透けて見える。

文在寅大統領は30日から7日間の夏季休暇に入った。事態の重要性を鑑みる場合、一歩引く印象を与えるのは良い選択ではないと筆者は考えるが、こうした「余裕」を示すこともまた大切では無いかと思いもする。

ただ今後は、これまで以上に国内外に対し「丁寧な」外交、そして説明が要求される。今は即時対応ムードであるが、冷静な観点を失わず、長期的な視点に立って「味方を増やす」方向に進むべきだろう。




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