28日午後11時40分ころ、北朝鮮が慈江道でICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験を行った。この実験が今後、韓国の北朝鮮政策に及ぼす影響を分析する。(ソウル=徐台教)

米国防総省「ミサイルはICBM」

日米韓の防衛当局によると、午後11時42分ころ慈江道前川郡舞坪里(ムピョンリ)から高角度(ロフテッド軌道)で発射されたミサイルは、最高高度約3,700キロに達し、東に向け約1,000キロ、約45分間飛翔した後、日本海の排他的経済水域(EEZ)の内側に落下した。

米国国防総省は声明を発表し、今回発射された弾道ミサイルがICBM(大陸間弾道ミサイル)だとした。

7月4日にやはり高角度で行われたICBM発射実験(火星14型)の高度が2,802キロ、飛距離は933キロであったことから、北朝鮮のミサイル開発技術が一段階発展したことになる。

文在寅NSC
29日午前1時から北朝鮮のミサイル発射実験を受け、国家安全保障会議に臨む文在寅大統領。表情が厳しい。写真は青瓦台(大統領府)提供。

一部では通常の角度で発射した場合の飛距離が1万キロに達するという見方もある。これは米国本土を射程に収めることを意味する。

ミサイル発射の一方を受け、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領はすぐに国家安全保障会議(NSC)全体会議を主宰し、対応に当たった。

南北対話の復元遠く

現在、南北関係はまったく進展を見せていない。7月17日、韓国政府は北朝鮮に対し、7月27日に軍事境界線付近での挑発行為を停止するための南北軍事当局会談を、8月1日に離散家族再会行事のための南北赤十字会談をそれぞれ板門店で行うことを提案していた。

韓国国防部と赤十字社が北朝鮮側に会談を正式提案 「新ベルリン宣言」を実行に

しかし、27日の会談までに北朝鮮は何ら反応を示さず、当日も会談場に姿を現さなかった。8月1日の赤十字会談までも数日を残すのみとなったが、29日午前の段階で、北朝鮮当局の沈黙は続いている。

また、文在寅政権の発足後、70件にのぼる北朝鮮との接触申請を許可してきたが、実際に北朝鮮を訪れた民間人はまだ存在しない。

過去、金剛山観光を仕切り北朝鮮との太いパイプを持つ企業・現代峨山も接触許可を得て、8月4日に金剛山で鄭夢憲(チョン・モンホン)前会長の追悼式を行う予定であった。だが27日、北朝鮮が今年の式典開催を拒否したことで訪朝は霧散した。

今回のミサイル発射は北朝鮮側の開発スケジュールに合わせたものとはいえ、韓国への強いメッセージを含んでいる。「現時点で」韓国との対話を蹴る、事実上の拒否宣言と見ることもできる。




米国による強力な独自制裁間近

北朝鮮は従来、早朝か午前中にミサイル発射実験を行ってきた。今回、ミサイルを発射した午後11時40分頃はワシントン時間では朝10時頃となり、トランプ大統領に強い印象を与える目的があったと推測される。

北朝鮮が米国時間に合わせて発射したと思える動機の一つに、現地時間の25日に下院を、27日に上院を圧倒的な票差で通過した米国の独自制裁案がある。

複数の韓国メディアによると、ロシア・イランに対する制裁案も含むこの法案の中で、北朝鮮への制裁内容には、▲北朝鮮への原油と石油製品の販売を禁止(人道的な重油の支援は可能)、▲北朝鮮の労働者を雇用した企業の米国内での取引の禁止、▲国連制裁を違反した船舶の米国への入港禁止、▲北朝鮮のオンライン金融取引の遮断などが含まれる。

トランプ米大統領
米国のトランプ大統領。文大統領の北朝鮮政策について支持するとはしたものの…。写真はホワイトハウスHPから。

これは「既存の国連安保理の北朝鮮制裁とは比べ物にならないほど協力で細密」(中央日報)なものとされ、トランプ大統領が署名をする場合、10日後に発効となる。

上下院で圧倒的に可決されたため、署名を拒否することはないと見られていたが、今回のミサイル発射実験を受けこの制裁が早期に実施される可能性が高まった。

足並み乱れる米韓

韓国の北朝鮮政策の基調は「制裁と対話」だ。「核廃棄と南北関係の改善」を同時に行うというこの政策を、文政権は就任後から愚直に進めてきたし、国際社会へも事あるごとにアピールしてきた。だが、近ごろとみに米韓の足並みの乱れが目立つ。

[外部寄稿] 制裁と対話並行論の落とし穴 (金根植・慶南大政治外交学科教授)

米国の様子について、28日付けの中央日報に寄稿した米戦略国際問題研究所(CSIS)のマイケル・グリーン選任副所長は以下のように指摘している。少し長くなるが引用する。

(引用開始)まず米国側を見てみよう。先週、主要人物が矛盾する対北朝鮮メッセージを出した。ダンフォード米統合参謀本部議長はコロラド州アスペンで「北朝鮮に対する軍事行動を排除するという仮定は間違っている」と述べた。米国務省のソーントン次官補代行は「現在の圧力戦術が潜在的に平壌(ピョンヤン)を対話に導くことができる」と議会で証言した。米中央情報局(CIA)のポンペオ長官は「北朝鮮の政権交代を含む、さまざまな選択を模索している」と主張した。もちろん外交から軍事行動まですべての可能性を検討しなければいけない。しかし当局者が公的な席でそれぞれ違う声を出すというのは、トランプ政権の政策決定過程がまだ円滑に作動していないということを表す。ホワイトハウス内部の絶えない派閥争いとトランプ大統領の「ツイッター政治」は米政権の対北朝鮮戦略の不確実性を高めた。北朝鮮の対する圧力と制裁の目標は何か。北朝鮮を封鎖することか、抑止することか。北朝鮮政権を崩壊させることか。それとも外交段階に着手することか。不確かだ。(引用終了)
引用元:【コラム】韓米大統領は「同床異夢」なのか(1)

6月末に行われた米韓首脳会談で、文大統領はトランプ米大統領から「朝鮮半島の平和統一の環境を醸成することについて、韓国の主導的な役割を支持」を取り付けることに成功すると共に、「北朝鮮を敵対視しない」点についても合意した。

だが、引用文にあるように、米国は独自の目標の下で行動を決めているように見える。17日に韓国が北側に会談を提案する際にも難色を示したとされる。今回のICBM発射実験により、米国が独自制裁を実行に移すことが確実な中、「制裁は米国、対話は韓国」と紋切型のアプローチを韓国側が続けることは難しいと見る。

圧迫しか残らない中、政策転換はあるか

韓国の統一部はその間、「北朝鮮との会談にデッドラインは存在しない」と明言してきた。さらに28日の定例記者会見で、「北朝鮮が挑発には強く圧迫・制裁をしながらも対話の道を開いておくという既存の構想には変化がない」と従来の姿勢を強調していた。

統一部記者会見
28日、定例記者会見を行うイ・ユジン統一部副報道官。韓国の北朝鮮政策が今後も変わらないことを強調した。筆者撮影。

だが、韓国内には北朝鮮政策の変化を求める声も少なくない。政権側としては発足初期ということもあり、既存の政策を貫きたいだろうが、国際社会に韓国の肩を明確に持つパートナーがいない点は苦しい。

中国との間では未だにTHAAD配備をめぐる葛藤が整理されておらず、北朝鮮政策までたどり着けない。ロシアは米国の制裁に対する反発を強めると同時に、前回のICBM発射をめぐっては国連安保理による北朝鮮への糾弾声明に反対するなど、北朝鮮寄りの姿勢を崩していない。日本も北朝鮮への独自追加制裁を決定し、対話には慎重だ。

韓国青瓦台(大統領府)によると、文在寅大統領は29日深夜のNSCで以下の4つの指示を下した。

1. 北朝鮮の戦略的挑発に対する対応措置として、米韓連合で弾道ミサイル発射を行うなど、より強力な武力示威を展開する。
2. 残るTHAAD発射台の追加配置を含む米韓間の戦略的抑止力を強化する方案を即時協議する。
3. 国連安保理の招集を緊急に要請し、強力な北朝鮮制裁案作成を推進する。
4. 北朝鮮の追加挑発に対する警戒態勢を強化する。

文字通り「最大限の圧迫」の実施であるが、この「チキンレース」の果てに何があるのかは分からない。確実なのは、南北対話、南北関係の復元は遠のく一方だという点だけだ。

8月7日からフィリピン・マニラで行われるASEAN地域安保フォーラム(ARF)に、韓国からは康京和(カン・ギョンファ)外交部長官が、北朝鮮からは 李容浩(リ・ヨンホ)外相が出席する。韓国メディアでは早くも外相会談の実現に注目が集まっているが、今のままでは仮に面会をしても、建設的な対話は不可能だろう。

実質的には圧迫しか残らない現在の北朝鮮政策を貫くのか、もしくはまだ見ぬ「プランB」へと転向するのか。悪化するであろう世論を横目に今後、韓国政府の判断と決断が問われることになる。




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