韓国の文在寅大統領が新たな北朝鮮政策を明かした「新ベルリン宣言」について、北朝鮮側がメディアを通じ、はじめて反応を表明した。南北関係について「必ず解決しなければならない根本問題から始めるべき」と「非政治的経済協力から始めよう」という韓国側と対照的な姿勢を示した。一方、韓国政府側はこの反応を「肯定的」と捉えているようだ。内容をまとめた。(ソウル=徐台教)

「新ベルリン宣言」とは?北朝鮮に対する5つの政策基調と4つの提案

朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は15日、「朝鮮半島の平和と統一のための進路が何であるかしっかりと知らなければならない」というタイトルの論評を掲載した。政府機関の声明ではなく、個人署名の文章だが「新ベルリン宣言」を初めて正面から扱ったことで、大きな注目を集めた。

新ベルリン宣言とは、文大統領が7月6日(現地時間)にドイツ・ベルリンで行った演説のこと。

「朝鮮半島平和構想」とも名付けられたこの演説の中で、「平和の追求」や北朝鮮政府の安全を保障」、「南北が共に繁栄する経済共同体」など5つの北朝鮮政策の方向と、「7月27日を期に軍事境界線での敵対行為を相互に中断」、「10月4日に離散家族再会」などの4項目の提案が行われた。

具体的な内容は以下の記事に詳しい。

「10.4に離散家族再会、7.27に軍事境界線での敵対行為中断を」文大統領が演説で金正恩氏に呼びかけ

「先任者とは異なる」と一定の評価をしたが…

論評はまず、肯定的な内容から始まった。「『新ベルリン宣言』と呼ばれるこの『平和構想』では、6.15共同宣言と10.4宣言に対する尊重、履行を誓うなど、先任者たちとは異なる一連の立場が込められているのは、かろうじて良いと思える部分だ」と、文在寅政権が掲げる過去の南北間合意との連続性に賛同する論調を見せた。

だが、すぐに内容は一変する。「平和の美名の下に明かした全般の内容には、外勢にしがみ付き同族を圧殺しようとする対決の底意が敷き詰められており、朝鮮半島の平和と南北関係改善の助けにならないばかりか、障害を積み上げる寝言のような詭弁が列挙されている」とした。

その上で、「それらしい包装に包んだが、外勢への依存と同族対決という本心がそのまま反映されている」と、宣言をひとまとめに厳しく非難した。

論評では次いで、新ベルリン宣言の細かい内容を批判していく。なお、宣言の全文訳は以下の記事を参考にされたい。

[全訳] 文在寅大統領ケルバー財団招待演説(新ベルリン宣言) [2017年7月6日]




「なぜ外国で発表するのか」 細部にわたり全面的に批判

まずは「なぜ自身の土地ではない、自分の民族でない他国の人の前で発表したのか」とし、「民族よりも外勢を優先し、すべての問題を解決するという事大主義的根性の発露」と民族的な視点を強調した。

そして文大統領が「ドイツが韓国が進むべき方向を指し示している」語った点を引用し、「これこそが典型的な『吸収統一』であり、『自由民主主義により体制統一』をすると公表したもの」と非難した。

さらに「韓国みずからが尊重し継承するといった『6.15共同宣言』や『10.4宣言』を全面的に否定するものだ」とし、「双方が互いの思想と制度を認め、その基礎の上に連邦制の方式で統一を志向していくと確約したことを知らないのか」と畳みかけた。

[全訳] 6.15南北共同宣言(2000年6月15日)

[全訳] 10.4南北首脳宣言(2007年10月4日)

その上で、「私たちは南北首脳が、すべての民族の前で確約した祖国統一の里程標と民族共通の統一綱領を絶対不変の指針としており、これを尊重し実践していくことを強く要求している」と主張した。

「平和協定締結の雰囲気と環境が完全に変わった」核保有国を強調

論評は、韓国側の考える「平和」についても異見を明確にした。

文大統領が「北朝鮮の非核化が朝鮮半島の平和のための絶対条件」で「北朝鮮が核による挑発を中断しない限り、強い制裁と圧迫を続ける」とした点を引用、朝鮮半島情勢の緊張は「米国の侵略的挑発行為とそれを追従してきた韓国の親公選勢力の軍事的妄動」が呼び起こしていると従来の主張を繰り返した。

具体的な例として「2か月以上続いた米韓合同軍事訓練」や、「原子力空母打撃群が『列になって』行った訓練」、そして「米国の戦略核爆撃機編隊が軍事境界線に隣接した上空にまで飛来し、歴史上例を見ない爆弾投下訓練を行った」点などを列挙した。

そして「我が国の核を『深刻な脅威』と見なすことこそ、(北に対する)敵愾心を捨てていないことを認めている」とした上で、「朝鮮半島の平和を真に望むのならば、先に除去するべきは米国の時代錯誤的で強盗のような北朝鮮敵対視政策であり、侵略的な核戦争の脅威だ」とという「被害者」の立場を強調した。





筆者(徐)が最も注目したのは核と関連する北朝鮮の主張だった。

「米国本土まで届く精密化され多種化された自衛的核武装力は、世界の政治地形に大きな地殻変動を及ぼしており、今日の朝鮮半島平和保障の条件と可能性も、平和協定締結の雰囲気と環境も完全に変わったことを苦しくとも認めなければならない」という一節からは、「金正恩時代」の核交渉が「金正日時代」のそれとは全く異なるものになるだろうという印象を強くした。

論評は続いて、南北対話の前提となっている「正しい要件」や「適切な条件」といったあいまいな表現を問題視した。これを「核の放棄意志を表明すること」と見なし、「主人である米国と手を合わせて、われわれ(北)の核廃棄を誘導し、圧迫するのに先次的な関心と目的がある」と独自の解釈を示したのだった。

北側はこのように、対話を強調しながら圧迫を続ける文在寅政権を「李明博と朴槿恵を彷彿とさせる」と先任者に例え非難した。そして「前提条件のある関係改善とは、事実上、南北対決を続け、より悪化させるという声にしか聞こえず『制裁と対話の並行』は寝言に過ぎない」と退けた。

こうした北朝鮮の対応心理はこの記事に詳しい

[外部寄稿] 制裁と対話並行論の落とし穴 (金根植・慶南大政治外交学科教授)

「北朝鮮レストランの女性12人を返すのが先」

最後に、「南北関係を非政治的な人道的交流から再開しよう」と呼びかける韓国側の提案についての言及もあった。

「南北間の体育文化交流や人道主義的協力事業を否定しない。同族間の血縁的、情緒的な連帯感と民族的共通性を蘇らせるためのこうした事業は、どんなことがあっても中断されてはならない」という基本的な立場を明かしつつも、金剛山観光と開城工業地区経済協力事業が完全に遮断されたのは、韓国の「親米保守たち」のせいと責任を押し付けた。

そして「人道主義的問題解決(離散家族再会を指す)を言うならば12人の女性公民とキム・リョニの送還が先」という従来の主張を繰り返した。

これは中国で北朝鮮が運営するレストランから12人の従業員が韓国に亡命した2016年4月の「事件」を指す。北は韓国の情報機関・国家情報院が12人を拉致したものと主張している。

一方、2011年に韓国に入国した脱北者のキム・リョニ氏は「ブローカーに騙されて入国した」と主張し、2015年以降、韓国当局に対し北朝鮮への「帰国」を求めている。

論評はその上で「南北関係の第一歩は『必ず必要なものから』、『必ず解かなければならないものから』始まるべき」と念を押した。具体的には「南北関係の根本的な問題である、政治軍事的敵対状態の解消が先」というものだ。




韓国政府の反応は肯定的も

この論評に対し、韓国統一部の関係者は「北朝鮮の反応が心配したよりも悪くなかったと見る」(聯合ニュース)と肯定的な立場を明かしている。

実際に、2日後の今日17日には、韓国赤十字社を通じ離散家族再会のための実務協議を、国防部を通じて軍事境界線での敵対行為停止のための会談を呼び掛けるなど、現実的なアクションに踏み切った。

17日の記者会見で趙明均(チョ・ミョンギュン)統一部長官は「北朝鮮側と事前の協議は無かった」と明かしているが、今回の労働新聞の論評が提案の根拠の一つになったことを暗に認めた。

韓国の保守紙は、今回の論評に対し否定的な見方をしている。筆者もやはり「平和協定締結の雰囲気と環境も完全に変わったことを苦しくとも認めなければならない」という一節を重く見る。

今後の南北交渉が一筋縄でいかないのは分かり切っているが、新しい環境に合わせた新しい韓国の戦略が見えないのが気になるところだ。とはいえ、接触が無ければ何も始まらない、という韓国政府の方向性には同意する。

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