韓国の国策シンクタンク・統一研究院が今年4月に1000人の韓国国民を対象に行った統一意識調査。前回の記事では調査結果を元に、韓国国民の統一意識が「統一は必ずしも必要ではない」方に傾き、さらに「単一民族=単一国家でなければならないという『民族アイデンティティ』に基づく統一論」が限界を迎えていることに触れた。

今回は調査責任者である同研究院の朴宙和(パク・チュファ)研究部長による調査結果の分析を整理する。(ソウル=徐台教)

変わる韓国国民の統一意識 (上)「統一は必要」が減り「分断の維持」が増加

民族アイデンティティ以外の拠り所なく

朴部長はまず、統一意識の「悪化」の理由として、2016年1月の北朝鮮の核実験により起きた朝鮮半島の危機状況が反映したと見立てた。「朝鮮半島の緊張を解消するためには、統一よりも短期的な分断管理が必要だということだ」と回答の傾向を解釈した。

その上で、「統一の理由を民族アイデンティティに求める以外にこれといった代案がない」という重要な点を指摘した。

確かに「なぜ統一するのか?」と聞かれた時に「同じ民族だから」以外の答を導くことは簡単ではない。筆者(徐)も同様だ。

朴部長によると、同じ民族であるにも関わらず敵対的行為を続ける北朝鮮の行動は「民族アイデンティティ」に反するものであり、これは「民族アイデンティティ」そのものに疑問を投げかけることになる。その結果、統一に対する認識を悪化させた可能性があるというのだ。

とはいえ、「統一を避ける」という今回の調査結果が「短期的な現象であるか、国民意識の根本的な変化なのかは次期の調査を通じ、より明確になるだろう」と慎重な見方を示した。

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朝鮮半島問題の国際化がもたらすジレンマ

朴部長はさらに、「統一意識の悪化には国際的な影響もある」と記述する。「朝鮮半島の分断は外国の決定に拠ったため、朝鮮半島問題の本質は国際的な性格が強い」という観点だ。

「冷戦時代、南北間の体制競争の中で、逆説的に韓国の国民は分断の悲劇を体感し統一の意志を高めた」と朴部長は分析する。

だが、冷戦の崩壊と1991年の南北朝鮮の国連同時加盟を経て、1993年の北朝鮮のNPT(核不拡散条約)脱退により北朝鮮の核兵器開発が可視化し、そこに中国の成長が加わったことで「朝鮮半島の問題は周辺国の利害関係と先鋭に絡み合うことになった」というのだ。

このような朝鮮半島問題の国際化は、「韓国を除いて朝鮮半島問題を論議することを可能にする」結果をもたらし、最近、韓国内で議論となっている「コリア・パッシング(北朝鮮問題への対応において、韓国が議論の外に置かれること)」のように、当事者である韓国が弾かれるジレンマをもたらしている。

周辺国を説得する「統一公共外交」の根幹揺らぐ

しかし「こうした動きは必然的」と朴部長は続ける。「統一と統一過程において、周辺国の理解と支持がより重要になったから」というのがその答えだ。

このため、米国、中国、日本、ロシアなどの立場に立ち「なぜ統一が必要なのか、統一が自国の利益をどう増進させるのか」を説得する論理が必要になった。さらに最近では、周辺「国家」ではなく、周辺国の「国民」の認識を肯定的に変化させようとする努力を韓国政府が行っているとする。「統一公共外交」と呼ばれるものだ。

その前提は「韓国の国民は統一を望む」というところから出発していると朴部長は説明する。周辺国とその国民が同意してくれるならば、韓国は統一を選択するという論理だ。

だが、これまで見てきたように、韓国国内で分断を選択する認識が高まっているという調査結果は、こうした「基本となる仮定」が揺れていることを示唆していると分析している。




「統一は国家にとってのみ利益」 韓国国民への説明不足

朴部長はさらに、核問題など朝鮮半島問題の国際化が、朝鮮半島問題の当事者・韓国が国際社会から弾かれる「コリア・パッシング」を生んだとすれば、統一問題の国際化は韓国の国民が乗り遅れる「コリアン・パッシング」を生んでいると指摘する。

韓国の国民はメディアを通じ、朝鮮半島の分断と統一がどういう意味で国際社会に影響を与えているか、そして、朝鮮半島の平和と統一が韓国の経済的・国際的な評判にどう影響するかを日常的に見聞きしている。

これこそが「南北統一が国家的に利益になる」と回答者の68.8%が考える理由だというのが朴部長の分析だ。

一方、韓国の国民は「統一とは何なのか、分断はどのような意味なのか」についての説明に接することが少ない。

これにより、「統一が自身にとって利益にならず、統一が自身の生活に影響を与えないと信じる」ことになる。「統一が個人の利益になる」を答えた回答者が24.2%にとどまった理由だ。

朴部長はここまで分析した上で「統一問題が国際化することで、国家間の利益を強調する資本主義・現実主義的な一般性が、民族主義に基づく南北関係の特殊性を弱める効果を生んだ」と総括する。

さらに「統一が民族の問題よりも国際秩序の問題として扱われている中で、民族アイデンティティに基づく統一論の説得力が有効であると望むことは、木に登って魚を捕るようなものだ」と厳しく指摘する。

その上で、「こうした状況が続く場合『周辺国は統一を支持するが、韓国の国民は統一を選択しない』という最悪のシナリオが起きる可能性がある」と警鐘を鳴らす。



「内交」のススメ 韓国国民の認識の変化を受け入れるところから

朴部長はこのレポートの最後を、今後の統一政策における代案の提案に当てている。核心となるのは「統一公共内交」だ。

韓国が「統一公共外交」を通じ、朝鮮半島問題の当事者たらんと周辺国とその国民に対し合意を得るための説得工作を行っているように、「統一公共内交」を通じ、韓国の国民に対してもコンセンサス(合意)を得る努力をするべき、というのだ。

これは「統一」に対し全く無知であったり、間違った考えを持っている外国人に対するように、韓国の国民にも接する必要があるという、画期的なものだ。

朴部長はさらに「統一の共感帯(コンセンサス)拡散のためには『当為的な(当たり前としての)統一』ではなく『国民が考える統一』が出発点になるべきだ」と強調する。

「なぜ分断を望むのか」、「なぜ、統一が自分自身に利益になると考えないのか」、「民族アイデンティティに基づく統一論はなぜ弱まったのか」という国民の現実に対する理解と共感が先にあるべき、というのだ。

前回の記事でも触れたように、韓国の憲法では統一をこう位置付けている。

憲法第4条 大韓民国は統一を志向し、自由民主的基本秩序に立脚した平和的な統一政策を樹立し、これを推進する。

だが、「統一が憲法で規定した国家の義務であるからと、国民も当然のように統一を望まなければならないという規範が統一認識変化の出発点となってはならない」と朴部長は繰り返す。

「国民の統一認識が間違っている」と考えるのではなく、「国民の統一意識が正しい」と思うことが、「統一公共内交」の核心だというのだ。




「分断の克服としての統一」と「統一の経験」という二つの実践案

朴部長は今後、韓国政府が採り得る具体的なアクションを二つ提案している。

まずは「分断の克服としての統一」論の普及だ。朴部長によると、「朝鮮半島の分断は70年以上経ち、今や非正常的な状況ではなく、日常的な状況になっている。未来に訪れる統一よりも、現在の状況である分断に焦点を当てる」ことから始めるものだ。

韓国の国民にとっては、「統一よりも分断の体感度の方が圧倒的に高い」ため、「分断が(平素の)判断基準となっている可能性が高い」という見立てだ。

「だからこそ、分断の非正常性や、分断による国家と個人の損失費用を認識し、分断の克服としての統一をコンテンツとする必要がある」という提案は非常に興味深い。

次に挙げるのは「統一教育でない、統一の経験(Unification Experience)」だ。先述した「分断の克服としての統一」は、「講義や強要ではなく統一の経験を通じ極大化できる」という視点からの提案だ。

その根拠は、世論調査の結果にあるという。朴部長によると、脱北者と1回以上接触したことのある回答者(187人)は、接触の無かった回答者(813人)に比べ、統一の必要性と統一による利益を高く評価したという。

このため、朴部長は「統一体験館」の設置を提言する。コンセプトは「次世代に対し、北朝鮮の歴史でなく韓国北部地域の文化を体験させ、同行する父母には平和な南北関係が個人の暮らしに及ぼす影響を経験させる」というものだ。

朴住和研究部長に聞く「新政府に期待」

筆者(徐)は記事を作成しながら、二度、今回の世論調査を統括した朴宙和研究部長と通話した。内容の説明を聞きながら、いくつか質問を投げかけたが、個人的に興味深かった内容を紹介したい。

本研究を取りまとめた統一研究院の朴宙和(パク・チュファ)研究部長。

まず「『民族アイデンティティに基づく統一論が通じない』という現状は、韓国社会でどこまで共有されているのか」という問いには、「統一部や学会ではある程度、共有されていると見る」と答えた上で「同じ民族だから、という前提は転換する必要がある」と持論を強調した。

また。「文在寅政権になって、これまでの統一政策が変わるのか」という問いには「新政府は国民の意志を反映する政府だと言っているので期待している」と述べた。

今回、記事を書くにあたり本レポート「平和的分断と統一:2017 統一に対する国民認識調査結果と意味」を読み込んだが、文字通り、目から鱗が落ちた。

「朝鮮半島の問題は国際的な問題になってしまったが、統一の主体は南北朝鮮の国民である。韓国政府は周辺国を説得する『統一公共外交』の目標と戦略を、自国民に対する『統一公共内交』に拡張しなければならない」という朴部長の持論は、筆者にとってとても新鮮だった。

南北関係だけでなく、今後、文在寅政権下で行われるであろう、統一教育の変化にも注目していきたい。





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