G20(主要20か国)サミット参加のためドイツを訪問中の文在寅大統領が、ベルリンで演説を行い「新政府の朝鮮半島平和構想」を発表した。文大統領は演説の中で現在を「軍事的な緊張の悪循環が限界点に達した時期」と捉えた上で、金正恩氏に対し離散家族再会、当局間対話の再開など4つの具体的な提案を行った。演説内容をまとめる。(ソウル=徐台教)

[全訳] 文在寅大統領ケルバー財団招待演説(新ベルリン宣言) [2017年7月6日]

元祖「ベルリン宣言」から17年 「新ベルリン宣言」の核心は「平和」

文大統領はまず、主催側のケルバー財団に謝意を表した。同財団は世界の指導者たちが政策を語る場所として名高く、2014年3月には中国の習近平国家主席も招待され演説を行っている。

文在寅ケルバー財団
現地時間7月6日、ドイツ・ベルリンのケルバー財団で演説する文在寅大統領。写真は青瓦台提供。

次いで言及したのは、故金大中大統領の「ベルリン宣言」だった。

17年前の2000年3月9日にベルリン自由大学で行われた同演説で金大統領は「朝鮮半島を地球上で唯一の冷戦地域」とし、その理由を「北朝鮮の頑固な閉鎖政策」のためとした。

そしてドイツ統一にかかった莫大に費用を引き合いに出し「これを負担する力が韓国にはない」と認め、その上で「すぐに統一を追求するのではなく、朝鮮半島にまだ残っている相互脅威を解消し、南北が和解・協力しながら共存・共栄を追求し、統一はその次」というビジョンを示した。

もう少し、ベルリン宣言について触れる。

金大統領は演説の中で「今も開放と変化を躊躇している北朝鮮」に対し、▲北朝鮮の武力挑発を絶対に容認しない、▲北朝鮮を害したり吸収統一を追求しない、▲南北が和解・協力するという、就任時に掲げた「太陽政策」の核心となる三原則を再確認した。

そして「朝鮮半島の冷戦構造を解体し、恒久的な平和と南北間の和解、協力を実現するため」に、▲韓国政府は北朝鮮が経済的な困難を克服できるよう支援する準備ができている、▲当面の目標は統一でなく、冷戦の終息と平和協定、▲何よりも人道的次元の離散家族問題の解決に積極的に応じる、▲南北当局間対話の必要性を宣言した。

6.15南北共同宣言
6.15南北共同宣言を発表する金大中大統領(左)と、金正日国防委員長(右)。写真は青瓦台。

この宣言が三か月後の歴史的な南北首脳会談、そして「6.15南北共同宣言」を呼ぶきっかの一つになったと言われる。

文大統領も演説の中で「ベルリン宣言が60余年間対立し、葛藤を繰り返してきた南と北が和解と協力の道に踏み出す大転換を導いた」と持ち上げた。

そして自身を太陽政策を続けた金大中・盧武鉉政権の「努力を継承する」と位置づけ、「韓国のより主導的な役割を通じ朝鮮半島の平和体制を構築する大胆な旅程を始めようと思う」と意気込みを宣言した。

なお、今回の文在寅大統領の演説は、金大中大統領の「ベルリン宣言」と似たような内容・構成を踏襲している。韓国メディアが「新ベルリン宣言」と呼ぶ理由の一つだ。




金正恩氏に警告と懐柔「今が最後の機会で最も良い時期」

文大統領は続いて、金正恩氏に対し現在の朝鮮半島情勢を説明しながら説得を試みた。まず、「二日前のミサイルによる挑発は、とても失望的で大きく間違った選択」と断じ、「無謀で国際社会の応酬を自ら招くもの」と位置付けた。

そして「北朝鮮が戻ってこられない橋を超えないことを願う」と従来の見解を繰り返すと共に、「北朝鮮が正しい選択をできる最後の機会で、最も良い時期であるという点」を強調した。

その理由として「高まり続ける軍事的な緊張の悪循環が限界点に達した」点を挙げ、だからこそ「対話の必要性が過去のどの時よりも切実になった」と説明した。

また、G20サミットに先立つ6月末にあった米韓首脳会談で「平和的な方式で朝鮮半島の非核化を達成するという大きな方向に合意した」ことに言及し、「北朝鮮に対し敵対視する政策を持っていない」点も明確にした。

さらに「朝鮮半島の平和統一環境を造成することにおいて、韓国の主導的な役割」を米国と中国が共に「支持」していることを確認し、「対話の場に出るも、対話の機会を振り払うも北朝鮮の選択にかかっている」とボールを金正恩氏に投げた。

一方で、強い警告も発した。

「万が一、北朝鮮が核による挑発を中断しないのならば、より強い制裁と圧迫の他に選択がない」と語り、金正恩氏に対し「(韓国)政府と国際社会の意志を、北朝鮮が非常に重大で緊急な信号として受け止めることを期待し、促す」とした。



韓国政府の5つの政策方向を列挙

文大統領はここまで前置きした上で、韓国政府の政策として以下の5項目を明かした。簡単な内容も合わせてまとめる。

(1)韓国政府が追求するのはあくまで平和:「6.15共同宣言」と「10.4首脳宣言」に立ち返り、北朝鮮の崩壊も、吸収統一も、人為的な統一の追及もしないことを明言し、何よりも平和を望むとした。

(2)北朝鮮政府の安全を保障する朝鮮半島の非核化を追求:軍事的緊張を緩和し、南北間で失われた信頼を回復。北朝鮮の核の完全な廃棄と平和体制の構築、米朝関係および日朝関係の改善など包括的に解決を示唆。

(3)恒久的な平和体制を構築:南北合意の法制化、終戦と共に関連国が参加する朝鮮半島の平和協定を締結を推進。平和の制度化を目指す。

(4)朝鮮半島に新しい経済地図を描く: 軍事境界線で断絶した南北を経済ベルトで新たに繋ぎ、南北が共に繁栄する経済共同体を作り上げる。

(5)非政治的な交流協力事業を政治・軍事と分離し推進: 南北の交流協力事業を朝鮮半島のあらゆる構成員の苦痛を治癒し、和合を成し遂げる過程であると定義 南北間の緊張緩和と同質性の回復を目指す。

文在寅ケルビー財団
演説会場に入場する文在寅大統領。写真は青瓦台提供。

離散家族再会など、北朝鮮に対する4項目の提案も

そして最後に、上記の政策方向を踏まえた上で、北朝鮮に対し具体的な政策提案を行った。やはり項目別に整理する。

(1)10月4日の「秋夕」に南北離散家族再会行事:朝鮮民族の大きな祝日である秋夕(チュソク、中秋の名月に先祖のお参りを行う)に離散家族再会行事を行う。可能ならば、定められた場所以外に、お墓参りも一緒に行う。北朝鮮側の準備が難しい場合は韓国側への訪問だけでも行う。

(2)平昌オリンピックへの参加:2018年2月に韓国の平昌(ピョンチャン)で開催される冬季五輪に正式に参加。

(3)7月27日を期に軍事境界線での敵対行為中断を:朝鮮戦争の休戦協定が結ばれた7月27日を期に、現在、38度線を挟み行われている敵対行為(スピーカーでの放送など)を全面中断し、軍事的緊張を緩和。

(4)南北の当局間対話の再開と首脳会談:現在のように完全に接点がない状況は危険であるため、状況管理など、簡単な対話から始める。条件が整う場合、あらゆる議題をテーブルに乗せ、いつでもどこでも南北首脳会談を行う用意が韓国側はできている。

文在寅大統領4つの提案
文在寅大統領による4つの提案をまとめたバナー。青瓦台(韓国大統領府)が作成した。

ここまで提示した後、文大統領は「成熟した民主主義の力で、平和な朝鮮半島を必ず実現していく。ベルリンから始まった冷戦の解体をソウルと平壌で完成させ、新しい平和のビジョンを東北アジアと世界に伝播させる」と決意を世界に向けて語った。

総評:「出し切った」韓国の声が届かずとも

「新ベルリン宣言」の演説は約7000字に及ぶ長いものだが、韓国側としては切れるカードをすべて切った内容だった。

朝鮮半島問題の歴史性から始まり、「新冷戦」とも呼べる現在の状況までを整理した上で、今の時点で韓国が独自に行える提案4つを出し尽くした。

まず、離散家族再会については、北朝鮮国内への訪問が無くともよいと条件を提示するなど、人道的な配慮を前面に押し出し、北朝鮮側の負担を最大限減らすところまで譲歩した。

次に、平昌オリンピックは、従来の主張であった「南北同時開催、南北単一チーム」という大風呂敷を取り下げ、「参加」という最低ラインを掲げ、頼み込んだ。

文大統領ケルビー財団
聴衆と歓談する文大統領。写真は青瓦台提供。

三つ目となる7月27日の措置は、一見南北両方が軍事挑発を止めるように見えるが、その実は韓国側の一方的な停止だ。38度線では南北のスピーカーが対峙し互いの体制を宣伝しているが、韓国側のスピーカーの性能が勝っており、北側の放送は届かない。また、もし届いたとしても北の体制に憧れを抱く韓国軍兵士はいないため意味がない。

最後の南北間の対話については、韓国側の「正常な」提案である点がポイントだ。北側が簡単な対話すら拒む姿を支持する者はいないだろう。また、「どこでも」南北首脳会談を行うという点も韓国の譲歩だ。これまで二度(00年、07年)、韓国の大統領が平壌を訪ねているため、韓国の世論にも「次はソウル」という声が根強い。しかし、三度目の会談も平壌で行えることを示した。

文在寅大統領は、今の時点で出せる提案をすべて行った見てよい。さらに「正当性」も積み上げている。この日の演説に至るまでのプロセスも、王道ともいえる外交努力を繰り返してきており、これに北朝鮮が応じずに挑発を続ける場合、正当性はすべて韓国側のものになる。

対話の再開に時間がかかることは、折り込み済みだろう。文大統領の愚直な姿は「無駄な努力」と嘲笑の的になるかもしれないが、国際的な名分を一つ一つ手にしているという点で評価されてよい。

さらに就任からまだ二か月も経っていない点を見過ごしてはならない。今回の提案が宙に浮いたとしても、プランBを準備できる余裕は、まだまだ残っている。



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