6月28日から7月2日にかけて訪米した韓国の文在寅大統領は、米韓首脳会談終了後の現地時間30日、首都ワシントンに本部を置く有名シンクタンク「CSIS(戦略国際問題研究所)」を訪ね、米韓同盟の未来と北朝鮮核問題への対応についての演説を行った。

数日前の演説であるが、北朝鮮がICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験を行った今も色あせない、今後の韓国の姿勢を明確にする重要な演説との判断の下、演説内容をまとめ、全訳を掲載する。(ソウル=徐台教)

文在寅大統領CSIS
文在寅大統領の演説を知らせるCSISのバナー広告。演説はネットで生中継された。バナーはCSISサイトより引用。

「米軍が救出した避難民の息子」と自身を紹介し、米韓同盟の歴史を強調

文大統領はまず「米韓両国が半世紀を超える間に積み上げてきた友情を再確認」することから演説を始めた。米国到着後、最初の公式日程であった「長津湖戦闘」のエピソードを取り上げた。

内容は当時、米海兵師団が10倍を超える敵軍の包囲網を突破し、興南(咸鏡南道フンナム市)にたどり着いたことで「興南(フンナム)撤収」が可能になったというもの。

この撤収作戦を通じ、米軍艦艇に10万余名の避難民が韓国の最南部に位置する巨済(コジェ)島に逃れたが、その中に文大統領の両親がいたことを明かし「米軍が救出した避難民の息子が大統領になって皆様とお会いしている」と結ぶ。

今や「定番」とも言えるレパートリーだが、文大統領は「韓国の発展を導いた両輪である民主主義と市場経済は米国が韓国に伝えたもの」とし「両国が共有している核心の価値である」と続け、両国の結びつきを強調した。

さらに「米韓両国の関係は長い時間をかけて友情を積み上げ、根を張ってきた深く強固な同盟」と、その強固さをこれでもかとアピールした。

こうした米韓同盟の礼賛は、演説全体に見受けられる。文大統領が今回の訪米に際し、何よりもまず米韓同盟の結びつきを強化・強調し、その上で北朝鮮政策を韓国が主導することを「認めてもらう」作戦を持っていたことがよく分かる。

ろうそく革命とTHAADを「正当性」から結びつける

次いで文大統領は、大統領になるまでのプロセスとして「国民が民主主義と憲法を回復させた『ろうそく革命』」を取り上げ、韓国が「より民主的で、より公正な正義のある国として進んでいる」と説明した。

そして、この観点からTHAAD配置についての議論が「民主的な正当性と手続きの透明性が担保されるという過程に関するもの」であると述べ、「正当な法的手続きを守ろうとする韓国政府の努力が、 米韓同盟の発展にも有益だ」と、米国側に理解を求めた。

韓国はその間、繰り返し「THAAD配置の撤回はない」と言明している。

「金正恩は間違っている」北朝鮮の核問題に言及

ここまでを言わば序論とし、演説は米韓同盟が真に「偉大な同盟」となるために「北朝鮮の核とミサイルの問題」において「これ以上後退せずに未来に向けて新たに跳躍すること」が重要だと力説した。

文大統領は続けて、「核とミサイルが北朝鮮の体制と政権を守ってくれるという、間違った信心を持っている」と金正恩政権を非難すると共に、「北朝鮮の挑発を抑制し徹底した連合防衛態勢の上に挑戦半島の平和と繁栄のための旅程を始める」と宣言した。

米軍の力を借りて北朝鮮に対する抑止力を維持することが、まず基本となるという認識といえる。

文在寅大統領とCSIS
現地時間6月30日、米シンクタンクCSISで演説を行う文在寅大統領。写真はCSISの動画からキャプチャ。

北朝鮮に対する米韓の原則を列挙「統一の加速化もしない」と譲歩

また、「北朝鮮を交渉のテーブルに引っ張り出すためにあらゆる手段を動員する」とし圧力をうかがわせる一方で「金正恩委員長と対話することも必要」とした。

その理由を「北朝鮮で核廃棄を決定できる唯一の人物だから」という点に求め「北朝鮮がみずから核廃棄を決定すること」が対話の目標だと述べた。

その上で、米韓で合意した北朝鮮政策の原則を「明確に」明かした。

▲「敵対視しない」、▲「攻撃しない」、▲「政権交代や政権交代を望まない」、▲「統一の加速化を人為的に行わない」という内容がそれだ。

これは、米国がすでに言明している4つの原則、●「核保有国と認めない」、●「北朝鮮へのあらゆる制裁と圧迫を加える」、●「政権交代を推進しない」、●「対話で問題を解決」と相まって、今後の米韓の北朝鮮政策の指針となる内容だ。

ここまで述べたのち「対話の門は大きく開かれている。正しい判断を下し平和と繁栄の機会を手に入れることを心から促す」と金正恩氏に呼びかけた。

さらに「北朝鮮が正しい選択をするならば、私は朝鮮半島の平和と繁栄の道を北朝鮮と共に歩む準備ができている」とした。

いかに「困難」に立ち向かうか 「必ず核問題を解決する」と決意

この演説は、7月4日の北朝鮮によるICBM発射実験前に行われたため、いかにも「バラ色」のような内容と受け止められるかもしれない。

だが、文大統領が演説に「私たちが直面した課題は決して簡単なものではなく、予想だにしない困難が現れることもある」と、現在の状況を見越したような内容も盛り込んでいることに注目してもよい。

演説の最後では、北朝鮮に長期間拘留された後、米国で死亡した大学生オットー・ワームビア氏の死を悼みつつ「北朝鮮の核問題は必ず解決してみせる」と、強い意志を披露した。

総評「まずは米国から」

演説を見ると、米国への過度とも取れる同盟の強調にいささか胸焼け気味になる。だがこれは、朝鮮半島問題を韓国の思い通りに進める上で、韓国がいかに米国を重要視しているかの反証といえる。

就任から2か月も経っていない文在寅政府は、北朝鮮政策を説明し、共にするパートナーを増やしていく過程を始めたばかりだ。まず、最大の同盟国である米国を説得し、北朝鮮政策における合意を形成することは正しい。

その意味で、演説からは韓国の強い意志を読み取ることが大切ではないだろうか。

周知のように、北朝鮮は「対話」という韓国の呼びかけに対し、ICBM発射実験という正反対の呼応をした。中露は北朝鮮に対する「制裁と圧迫」よりも「対話」を重視し、合同してTHAADへの反対を表明するなど、利害当事者の行動は韓国の思惑を外れたもののように見える。

だからといって、韓国側の意図が無意味になるわけではない。一見、混乱真っただ中に見える朝鮮半島情勢の中で、原則を一つずつ積み重ねる文政権の努力を評価したい。

以下は演説全文。テキストは青瓦台(大統領府)発表のもの。翻訳は筆者。




文在寅大統領CSIS演説:偉大な同盟へと(2017年6月30日、米ワシントン)

尊敬するJohn Hamre会長、
そして内外の貴賓の皆様、

米国は就任後、私の初めての海外訪問先です。
今日、こうして皆様に会えることを喜んでいます。

就任直後、私はトランプ大統領と電話でまず話をしました。
トランプ大統領は私との通話で、
米韓同盟を単純な同盟ではなく
「偉大な同盟」と強調しました。
そのお言葉がとても印象的でした。
そしてこの演説文の主題も、米韓首脳による共同声明の序文にも
偉大な同盟が含まれるようにしました。

内外の貴賓の皆様、

私はこの場でまず、
米韓両国が半世紀を超える間に積み上げてきた友情を
皆様と共に再確認したく思います。

1885年、韓国では初めての西洋式病院である広惠院を設立した人物は
米国人の宣教師Horace Allenでした。
米国人宣教師たちは韓国で
近代式の教育機関と医療機関の設立を主導し、
抗日独立運動を支援しました。
米国の情報局はわれわれの臨時政府と協力し、軍事訓練を支援することもしました。

1950年、韓国では歴史上最も悲劇的な戦争が起きました。
二日前、米国に到着してまず訪問したところは、長津湖戦闘の記念碑でした。
朝鮮戦争で最も熾烈だった戦闘の一つとして記録された
この戦闘で米第一海兵師団は
「地獄よりもひどい寒さ」に耐え戦いました。
10倍以上におよぶ敵の包囲網を突破し
そのおかげで有名な興南(フンナム)撤収が可能になりました。

興南撤収は北朝鮮を脱出するために、興南埠頭になだれ込んできた10万余名の避難民を
米軍が無事に撤収させた大規模な作戦でした。
人類の歴史上例を見ない最大の人道主義的作戦でした。

その時、米国の貨物船メレディス・ビクトリー号は
武器と戦争物資を全て捨てて、貨物倉庫に避難民を乗せました。
実に14,000人もの避難民が生きるために、その船に乗り込みました。
その中に私の両親もいました。
ビクトリー号は私の姉の誕生日である12月23日に興南を出発し
12月25日に韓国の南の地、巨済島に到着しました。
ただ一人の犠牲者もいなかった自由と人権の航海でした。
5人の新たな命が航海中に生まれもしました。
文字通り、クリスマスの奇跡でした。
2年後、ビクトリー号が到着した巨済で私が生まれました。
そして今日こうして、当時米軍が救出した避難民の息子が
大統領になって皆様とお会いしています。




内外の貴賓の皆様、

戦争が終わった後、韓国が全世界に見せたまばゆい発展と成長は
すでに皆様もよくご存知の通りです。

韓国の発展を導いた両輪である民主主義と市場経済は
米国が韓国に伝えたものであり
両国が共有している核心の価値です。
過去70年間、米韓同盟は
朝鮮半島の平和と安定の根幹となったばかりでなく
韓国の経済発展と民主化に大きく寄与しました。
わが国民たちはその事実を知っています。

韓国の成長と発展の土台を提供した
米国は私たちのありがたい同盟です。
米国のアジア・太平洋地域のリーダーシップ維持と繁栄に寄与した
韓国もまた、米国にとって重要な同盟です。

米韓同盟が発展し拡大してきた間
両国の多くの国民が交流し、
宗教と文化、学問をはじめとする多方面で影響を及ぼし合いました。
長津湖戦闘で陣地を守ったある兵士、
ビクトリー号を運航したある船員が、今日、私の人生と繋がっているように
米韓両国の関係は、国と国、政府と政府だけでなく
人と人としても続いています。

内外の貴賓の皆様、

韓国には
「根の深い木は風に揺られず、
深い泉の水は尽きることはない」という言葉があります。
米韓両国の関係がそうです。
長い時間をかけて友情を積み上げ、根を張ってきました。
米韓同盟は韓国の歴史と共に発展してきました。
深く強固な同盟です。
両国の同盟関係は揺らぐことはなく、
この点において私の意志も確固としています。

内外の貴賓の皆様、

最近、韓国は例の無い政治的な危機を経験しました。
しかし我が国民は危機を機会に変えました。
最も平和で美しい方法で、
民主主義と憲法を回復し
新しい政府を発足させました。
わが国民たちはこれをろうそく革命と呼びます。

この場にいらっしゃる皆様も
わが国民たちのろうそく革命が
世界の広場民主主義の模範であったという評価に
同意することと信じます。

ろうそく革命は大統領としての私の出発点です。
韓国は今、
より民主的な国、
より公正で正義のある国として
進んで行くための変化を実践しています。
これはろうそく革命を通じ国民たちが要求したものであり、
その要求に応えることが大統領としての私の責務です。




THAAD配置の問題で
米韓同盟の将来を心配する視線が存在します。
THAAD配置に関する韓国政府の議論は
民主的な正当性と手続きの透明性が担保されるという、過程に関するものです。
これはろうそく革命で誕生したわが政府にとって、とても重要です。
私は米韓の間の決定を尊重します。
しかし、正当な法的手続きを守ろうとする韓国政府の努力が
米韓同盟の発展にも有益であると思います。
皆様の深い理解と共感を望みます。

内外の貴賓の皆様、

これから、演説の主題である「偉大な同盟」についての
私の考えを申し上げます。

米韓同盟はすでに偉大な同盟です。
しかし米韓同盟はより偉大になり得ます。
私はその精神を長津湖戦闘から発見しました。
その英雄的な戦闘を指揮したスミス師団長は
咸興撤収作戦を撤収ではない
「新しい方向への攻撃」と命名しました。
これこそが正に、米韓同盟の精神です。

今、我々の前には特別な課題があります。
過去20年間、解くことができなかった歴史的な難題です。
それが北朝鮮の核とミサイルの問題です。
脅威は既に朝鮮半島を超え、米国に向かっています。

世界的に最も切迫で危険なこの脅威の前に
これ以上後退せずに未来に向けて新たに跳躍すること、
私はこれが米韓同盟が良い同盟を超え
偉大な同盟に進む道だと思います。

偉大な同盟は平和を導き出す同盟です。

米韓領国は既に、朝鮮半島の平和構想に合意したことがあります。
2005年に6者会談で採択した9.19共同声明、
そしてこれを再確認した2007年南北首脳会談における10.4首脳宣言、
これらの合意は、北朝鮮の核の完全は廃棄と朝鮮半島の平和態勢の構築を
一度に包括的に成し遂げるようにした内容です。
米韓両国の緊密な共調があったことはもちろんです。

平和を力説するのは簡単ですが
それを実現するのはとても難しいことを良く知っています。
9.19共同声明の履行過程まで合意しておきながらも、実行に失敗した
過去10年の歳月が見せつけた事実でもあります。
さらに北朝鮮の金正恩政権は
核とミサイルが北朝鮮の体制と政権を守ってくれるという
間違った信心を持っています。

それにも関わらず私は
今こそこの困難な仕事を再び始める機会だと確信します。
トランプ大統領が米国の外交問題の最優先順位を
北朝鮮の核とミサイル問題の解決に置いたことは
歴代の米国政府が行わなかったことです。
この事実が北朝鮮核問題の解決可能性を高めています。
私は最善の努力を傾け、この機会を生かしていきます。

その確固とした前提こそが、強固な米韓同盟です。
北朝鮮の挑発を抑制し
徹底した連合防衛態勢を維持する土台の上に
韓国は米国と共に
朝鮮半島の平和と繁栄のための旅程を始めます。




内外の貴賓の皆様、

この旅程は偉大な米韓同盟の旅程です。
朝鮮半島の非核化から出発し
東北アジア全体の安定と平和に向かう長い旅程です。
我々の新しい方向は「戦略的忍耐」から抜け出し
北朝鮮を交渉のテーブルに引っ張り出すために
あらゆる手段を動員することです。

北朝鮮の挑発には断固として強力に対応しなければなりません。
同時に金正恩委員長と対話することも必要です。
彼が北朝鮮で核廃棄を決定できる唯一の人物だからです。
対話の目標は明らかです。
北朝鮮がみずから核廃棄を決定することです。

韓国は朝鮮半島問題の直接的な当事国です。
当事国として、また、残酷な戦争の悲劇を再び繰り返さないために
韓国はより主導的な役割を果たしていきます。
韓国が米国と緊密な共調の下に南北関係を改善していくならば
その過程で米国を含む国際社会も
北朝鮮との関係を改善できるでしょう。




内外の貴賓の皆様、

私は昨日、こうしたビジョンについて
トランプ大統領と深い対話を交わしました。
私たちはより積極的に平和を守り、作っていくことにしました。

この場で明確にお話します。
私とトランプ大統領は
北朝鮮に対する敵対視政策を推進しません。
私たちは北朝鮮を攻撃する意図がなく、
北朝鮮政権の交替や政権の崩壊を望んでもいません。
人為的に朝鮮半島の統一を加速化させることもありません。

しかし、私たちは北朝鮮に明確に要求します。
非核化こそ、安全保障と経済発展を保障される唯一の道です。
北朝鮮もやはり自らの運命を決めなければなりません。
自らの運命を他国のせいにすることはできません。

対話の門は大きく開かれています。
重要な選択の岐路で正しい判断を下し
平和と繁栄の機会を手に入れることを心から促します。
北朝鮮が正しい選択をするならば
私は朝鮮半島の平和と繁栄の道を
北朝鮮と共に歩む準備ができています。

内外の貴賓の皆様、

私たちの前には、北朝鮮の核問題を超えて多くの課題が横たわっています。
東北アジア地域の安定と繁栄を増進させなければなりません。
テロリズム、環境問題、難民、飢餓、伝染病のような
超国境的な懸案についても力を合わせなければなりません。

東北アジアと全世界で
民主、平和、人権、民主主義の価値を再建することは
米韓同盟が世界平和に寄与する同盟であることを立証することです。
米韓両国は強固な米韓同盟を基盤に
グローバルパートナーシップをより強めていきます。
国際テロリズムの撲滅のための連帯を強化し、
イラク、シリア、アフガニスタンなどでの平和定着と
再建努力を拡大していきます。

内外の貴賓の皆様、

同盟の最も大きな障害は現状への安住です。
私たちが直面した課題は決して簡単なものではなく
予想だにしない困難が現れることもあります。
しかし私たちには共通の目標があり
多くの逆境を克服してきた経験と知恵があります。
私たち自身を信じ、新しい構想を大胆に実践していかなければなりません。
北朝鮮が自ら平和の道を選択できるようにしなければなりません。

平和は自ら選ぶ時に、
完全で持続可能な平和になるという私の信念を
皆さんが支持し、共にしてくれることを願います。
米韓同盟が米韓両国を超え
東北アジアの国際平和と繁栄、価値の再建に寄与する
偉大な同盟として跳躍できるよう
共に力を合わせてください。

特別に、ワームビア氏の遺族と
米国の国民たちに深い慰労の言葉をおかけします。
家族は私たちの生活の根であり、果実でもあります。
私もまた、子どもを持つ親として、
そして米国の同盟国の首脳として
北朝鮮当局による過酷な行いが
ワームビア氏の家族と米国の国民たちに与えた衝撃と悲痛さに共感します。

ワームビア氏との離別が、その家族たちにとって
すべてを失ったことにさせてはならないという責任を感じます。
いかなる時にも家族の価値と人権が損なわれてはならず
私は皆さんと共に、
私が大切に思う価値を守るための
努力を止めないでしょう。
在韓米軍をはじめとする米国国民とわが国民を守るためにも
北朝鮮の核問題は必ず解決してみせます。

今日、共にしていただいた皆さまに
もう一度、深い感謝のお言葉を捧げます。

ありがとうございます。

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