人に会う際に「南北関係を専門に取材している」と自己紹介すると、「今後どうなるんですか?」という質問が返ってくることが多い。

そんな時は「分かれば苦労しませんよ」と笑うが、最近では「それでも韓国の立場は少しずつ見えてきています」と付け加えることにしている。

文在寅政権下での南北関係の基調は「核問題と南北関係を同時に改善していく」というものだ。これは「核問題の解決無くして南北関係の改善も無い」という李明博(08~13年)、朴槿恵(13~17年)という過去の保守政権の政策とは明確に異なる。

それでは、進歩(革新)政権であった金大中(98~03年)、盧武鉉(03~08年)政権の「太陽政策」への単純な「回帰」なのか?答えはノーだ。

日本のメディアやネットでは、民間団体による南北交流や人道支援を積極的に許可し、18年2月の平昌(ピョンチャン)冬季五輪の南北共同開催を提案するなど、北側に対し秋波を送る文政権に対する「融和」「親北」果ては「従北」などのレッテル貼りが目立つ。

文在寅大統領
6月15日に開かれた「6.15南北共同宣言」17周年記念式典で祝辞を述べる文在寅大統領。北朝鮮に対し、対話の提案を行うと同時に、南北間合意の意志を示すよう要求した。筆者撮影。

確かに、傍目にはそう見えるかもしれない。だが、韓国の行動にはそれなりの理由がある。

まず、主に進歩派の学者、官僚で構成される文政権のブレーンの間では、「文在寅政権の5年が北朝鮮との関係を回復する最後のチャンス」という危機感が共有されている。言い換えれば「南北関係が完全に断絶するかもしれない」という焦りだ。

李明博政権下で対立に向かった南北関係は、朴槿恵政権になってからはカチカチに冷え込んだ。いくつかあった南北直通電話も不通となり、南北の接点はほぼゼロにまで減った。

文政権の下で良い方向に変わらない場合、「核を持つ北朝鮮が韓国の完全な敵国となる」と悲観する専門家も少なくない。文政権は「共存共栄の未来か、核の下での緊張か」という瀬戸際を自覚しているのだ。

この危機感は、なかなか日本では理解されない。日本から眺める韓国と北朝鮮の関係は、対立もしくは統一という二元論に偏りがちだ。だが今、韓国政府が北朝鮮を対する際の行動原理は、統一という理想的な未来に向けての前進ではなく、韓国の近い未来に関わる危機管理であるという点を見逃してはならない。

ここまで見ると、文大統領がしつこいほどに対話を呼びかけることが理解できる。戦争を行わない前提で、朝鮮半島の危機を管理するための方策を考える場合、対話は必要不可欠だ。米国ですら北朝鮮と対話を続けてきたことが明らかになっている。対話の是非について議論するまでもない。

文在寅大統領軍歌熱唱
6月23日、朝鮮戦争参戦兵士の慰労宴に出席し、軍歌を歌う文在寅大統領。写真は青瓦台提供。

先ほど「回帰」と書いたが、これも間違いだ。単純に過去に戻ろうとしているのではなく、ずたずたに途切れた北との関係をまず「復元」しようとしていると見るべきだ。それは傍から見たら金・盧政権の轍をなぞることになるが、文政権はその先を見据えている。

その根拠の一つが「ブレーン」たちの時代認識だ。筆者がここ最近、顔を出した様々なシンポジウムで、彼らがシビアな現実分析をしていることを知った。盧武鉉大統領が任期を終えた2008年と2017年の今では環境が大きく異なる。

北朝鮮の指導者は若い三代目に代わり、核技術は飛躍的に発展した。米中の関係も変わり、韓国内の世論も北朝鮮に対し必ずしも好意的でない。こうした中、韓国は「統一」ではなく、前段階としての経済的な「統合」を目指している。不本意に思う人もいるだろうが、対立でなければ、共存共栄を目指す他にない。

文大統領自身も北朝鮮に対して思うとこがあるはずだ。民主主義、人権を価値として生きてきた人物が、金正恩氏や北朝鮮の統治システムに対し「融和的」であると考えるのは合理的ではないだろう。長く進歩派のアキレス腱であった北朝鮮人権問題への弱腰または無関心も、改善される兆しがある。

事態はなかなか韓国の思い通りに動いていない。周知のように、北朝鮮は文大統領の就任後、5度のミサイル実験を行うなど対決姿勢を維持している。韓国との対話に乗ってこないばかりか、「米国と話すから引っ込んでろ」と相手にしない素振りだ。

それでも、韓国側は一度決めた原則を推し進めている。統一部は南北関係復元を狙い、外交部は国際社会との協調を維持し制裁と人権問題の追及を続け、国防部では北朝鮮全土を射程に収める新型ミサイル実験を大統領立ち合いの下で行うなど、「対話=融和」でない体制づくりに余念がない。

こうした背景が、29日に控えた文政権後初の米韓首脳会談が「国運を賭けた会談」と韓国メディアで評される所以だ。任期5年とはいえ、南北関係の危機的状況の中では、初年度が勝負だ。韓国としては何がなんでもトランプ大統領の共感を得て弾みを付けたい。

日本から南北関係に関心を持つこと自体にケチをつける気はない。だが、安易なレッテル貼りに陥らないためには、韓国側の必死さを理解することが肝要だ。(了)




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