韓国外交部に康京和(カン・ギョンファ、62)長官が就任した。外交部初の女性長官となった康氏は就任会見で「国民の意志が込もった外交、国民と疎通する外交」を掲げる一方「制裁と対話をすべて動員し、北朝鮮の非核化を導かなければならない」とした。人物像、評価などをまとめる(ソウル=徐台教)

指名から28日…文大統領の「決断」

6月18日午後、文在寅大統領は青瓦台(大統領府)で康京和氏を外交部長官に任命、19日に外交部で康長官の就任式が行われた。

康京和外交部長官
6月18日、青瓦台で任命式に臨む康京和外交部長官(左から三番目の女性)と文在寅大統領(その隣)。青瓦台HPより引用。

康長官の任命には、先月21日の指名から28日もの時間がかかった。李洛淵(イ・ナギョン)国務総理が21日で任命されたことを考えると、異例の長さだ。

背景には、野党三党(自由韓国党、国民の党、正しい政党)の根強い反対があった。韓国では、総理、副総理および各省長官(国務委員)や国家情報院、検察総長、公正取引委員会委員長、憲法裁判所長など国家の重要人事を決める際には、国会で人事聴聞会が開かれ候補者の道徳性、能力、政策理解度などを検証する。

康氏の人事聴聞会は6月7日に開かれ、国会の外交統一委員会に所属する与野党の議員たちが質問を浴びせた。主な「疑惑」として、子女の学区を調整するための偽装転入、贈与税の滞納(長官指名後すぐに納入)、博士論文における剽窃、不動産投機、子女の二重国籍などが追及された。

さらに、康長官が職業外交官として、米国、中国、日本、ロシアといういわゆる「4強」国家との外交経験が無い点も議題に上がった。

これらの指摘に対し、康氏は偽装転入、贈与税の滞納など明白な「問題」については積極的に非を認め謝罪する一方、論文剽窃や不動産投機の部分では強く否定し、自身の潔白を訴えた。能力面においては「国連で会員国を相手に、困難な主題について毎日のように外交戦を繰り広げてきた」と自信を見せた。

だが、人事聴聞会の結論は「ノー」。野党三党は、康氏は外交部長官として「道徳性も能力も顕著に不足している」(自由韓国党)と「不適格」とし、次のステップである「人事聴聞経過報告書」の採択を拒否し続けた。

同報告書の採択期限は14日だったが、守られずに霧散するや、青瓦台側は再度、同報告書の採択を野党側に求め、その期限を「17日まで」と定めた。だが、野党三党はこれを聞き入れず、結局、18日に大統領が任命した。




文大統領はこれに先立つ15日の主席補佐官会議で、「憲法では国務総理、憲法裁判所長、監査院長などの任命は国会の同意を得るよう規定しているが、長官やその他の人事は大統領の権限」であり「国会が定められた期限まで人事聴聞経過報告書を送付しない場合、大統領が任命できる」とし、手続きにおける正当性を強調していた。

また、任命過程で野党の強い反対により雲行き不透明となるや、多くの人々が支持を表明した。「国際開発協力民間協議会」に所属する130のNGO(非政府組織)や、国際機構で働く現職の韓国人職員60人をはじめ、過去の外交部長官10人、潘基文(パン・ギムン)前国連事務総長などが「康京和こそが韓国が直面する外交事案を解決できる適任者」と口を揃えたのだった。

世間的にも「初の女性外交部長官」、「国連など国際経験豊富」など支持が高く、世論調査でも48.1%(9~10日調査、韓国社会世論研究所)が「適格」と答える一方(反対は35.2%)、62.1%(9日調査、リアルメーター社)が「康候補者の任命に賛成」と答えるなど、一定の支持率を見せた。この調査では56.1%の人々が「野党が反対しても任命を強行すべき」と答えていた。

こうした世間の雰囲気もあっての任命だった。表向きの理由は、29~30日に予定されている文在寅政権発足後初の米韓首脳会談、そして7月初めに予定されているG20首脳会議を外交部長官抜きで行うことはできないという「切迫さ」だった。

「共感・調整能力高い」国連システム、人権のエキスパート

康京和外交部長官はどんな人物なのか。1955年、ソウル生まれの康氏は延世大学政治外交学科を卒業した後米国に渡り、1984年にマサチューセッツ大学アマースト校でコミュニケーション学の博士号を取得している。

康京和外交部長官
康京和外交部長官。18日の任命直後、日曜日にも関わらず外交部に出勤し、グテーレス国連事務総長と対話した。写真は外交部HPより引用。

韓国帰国後の1996年にKBS(韓国放送公社)英語放送に就職、国会議長の国際秘書官、世宗大学助教授を経て1999年に特別採用で外交部入りした。故金大中(キム・デジュン)大統領の通訳官を務めた経験もある。

外交部では主に国連に関する部署でキャリアを積んだ。2000年に国際機構担当審議官に、2004年には国連韓国代表部の公使も務めた。2005年に外交部国際機構局の局長を経て、2006年からは国連に籍を移し、国連の人権部門で大きな影響力を持つ国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)で副弁務官として勤務した。2009年からは同事務所の副代表を務めた。

また、2013年3月には国連人道問題調整事務所(OCHA)事務次長補を務め、災害地域に多く足を運んでいる。2016年10月には国連事務総長に選ばれたアントニオ・グテーレス氏の「引継委員会」の責任者を務めた。

康京和写真
国連人道問題調整事務所(OCHA)事務次長補時代に東日本大震災で被災した福島県相馬市にも訪問している。写真はOCHA日本語サイトより引用。

その後、2017年5月21日に文大統領によって外交部長官に指名されるまでは、国連事務総長の下で、政策特別補佐官を務めていた。

康氏は韓国の国際関係分野に携わる人々の間で広く知られた存在だ。その人柄について、同氏を長く知る人権団体の関係者は「外交部長官としての知識、経験は十分だ。最大の長所は『疎通』能力だ。人の話をよく聞き、理解し共感する能力が高い。さらに原則を遵守しながら現実に合わせていくバランス感覚が秀でている」と評価した。

ただ「康氏はこれまで勤務してきた各組織で、副代表や代表補佐的な職務を多く務めており、外交部のような組織を動かしたことがない点が気にかかる」と付け加えた。

また、康氏は特別採用で外交部入りしているため、歴代外交部長官の中で初めての「非考試出身(ノンキャリア)」となる。外交部は「外務考試」を重視する傾向があるので、この点が部内の掌握にどう作用するかも未知数だ。




就任辞で「韓米同盟をより強固に発展」、「家庭との両立」も訴え

康京和長官は19日、外交部で外交部の職員に向けた就任演説を行った。まず「10年ぶりに外交部に戻り、皆さんと再び仕事ができてうれしい」とし「『国らしい国』を目指す新政府の外交部長官になり、強い責任感を覚える」とした。

さらに「国民の熱望、国際社会の期待、そして何よりも外交的難題を解いていくという時代の挑戦に直面している」と現状を位置づけ、「『国らしい国』、『強くて平和で堂々とした国』を作るため、外交部は国民と国益を最優先とし、力量と内実を整え、業務と思考の地平を果敢に広げていくとき」と鼓舞した。

その上で「時代が要求する外交は『国民の意志が込もった外交、国民と疎通する外交』とビジョンを示した。これを実現するために「より積極的な姿勢で国会とメディアはもちろん、国民と直接疎通することに力を注いでいくべき」と注文した。

具体的な外交懸案についての言及もあった。北朝鮮の核・ミサイル問題については「国民の挑発には断固として対応した上で、制裁と対話をすべて動員し、北朝鮮の非核化を導かなれければならない。この過程で私たちの外交安保の根幹である韓米同盟をより強固に発展させていかなければならない」とした。

主要国との関係についても触れた。中国とは「当面の懸案を解決し両国関係を発展させていかなければならない」とし、日本に対しては「過去を直視しながらも未来志向的で成熟した協力同伴者関係を目指す」とした。ロシアとも「協力を拡大し、両国関係を実質的に発展させるべき」と語った。

康京和外交部長官
19日、就任式で演説する康長官。写真は外交部HPより引用。

外交部職員向けの演説だったこともあり、組織内部への発言にも多くの時間が割かれた。「文書作成と決裁にかける時間を減らし、生産的な討論を増やし、夜勤と週末勤務が業務に対する献身と評価されてはならない」とした。

さらに「外交部は女性職員の比率が政府の全部署中で最も高い」と指摘し「働きながら三人の子を育てた私の経験を基に、職場と家庭の両立のために組織として支援できるよう検討する」と抱負を明かした。

また、「私は皆さんの同僚・康京和として業務を行っていく。様々な人と会い、疎通し、意見を傾聴し、外交部に対する国民の信頼を回復し、職員の誇りを取り戻せるようにする」と決意を述べた。

野党は強く反発「これ以上の協治はない」

文大統領による康京和長官の任命を、韓国メディアの多くは「強行」と評価した。前述のように法に抵触しないが、野党の反対を押し切っての任命であったためだ。さらに「政局は急速に冷え込む」という表現が続いた。

そもそも文在寅大統領は大統領候補時代に公約で「兵役の免脱、不動産投機、脱税、偽装転入、論文剽窃」の5つの不正行為のうち、一つでも該当する場合には高位の公職者として選ばないとしていた。だが、これに当てはまる候補者が続出するや、文大統領は5月29日の主席補佐官会議で「公約を具体化する引き継ぎ委員会がなかったため起きたこと」と国民に理解を求めている。

実際、野党の反応は強硬を極めている。第一野党の自由韓国党のチョン・ウテク代表代行は18日の院内対策会議で「文大統領の独善的な人事がデッドラインを超えた」と語り、さらに「康京和候補者の任命を強行したことは、これ以上の『協治』は無いという『協治放棄宣言』だ」と痛烈に非難した。

自由韓国党鄭宇澤バナー
第一野党・自由韓国党のホームページに掲げられたバナー。同党代表代行の鄭宇澤(チョン・ウテク)議員が「文在寅政府の独善と独走、協治破局、人事失敗、安保不安、韓米同盟破裂に対する強力な院内闘争を繰り広げる」と宣言している。

また、「全ての問題は、文在寅大統領本人による失敗した人事から始まっており(中略)このような一方通行式の独走と独善の政治では、絶対に国会の協力と円満な国政運営を成し遂げられない。どんな詭弁でも野党三党がすべて反対する康京和候補者の任命を合理化することはできない」と警告した上で、「今後も続く国会関連の懸案で自由韓国党と野党の円滑な協力は非常に難しい」と切って捨てた。

第二野党の国民の党も同様だ。18日の論評で「康京和長官の任命強行は文在寅政府の力にならず、今後長く重荷となる憂慮が大きい」と述べた。

続く19日の論評では、「康京和長官の任命強行で、協治は消えて狭量の政治だけが見えている。大統領自身が公言した人事の原則を違反しているので、最低限の説明と謝罪があるべきだ」と要求した。

そして「120議席の共に民主党だけでは改革も成功もあり得ない。文在寅政権が狭量と意地の政治を止め、協治の復活のためにあらゆる努力を注ぐことを求める」と厳しく指摘した。

第三野党の正しい政党もやはり、文在寅大統領の謝罪を求めた。18日の論評で「康候補は文大統領が約束した人事排除の5大原則のうち、偽装転入、論文剽窃、脱税、不動産投機の4つに違反する人物だ」とし、「政権初期の国民の高い支持率は、政局運営の動力を与えるためで、原則のない人事や常識に反する褒賞人事に目をつぶるものではない」と批判の声を高めた。




一方、与党の共に民主党は積極的に康長官を擁護している。18日には「歓迎する」という論評を発表し、「これ以上康京和長官の任命を政争の道具にしないよう」呼びかけた。

第四野党の正義党では、沈相奵(シム・サンジョン)代表が19日に「任命強行は望ましくないが、米韓首脳会談の日程を考えると不可避だ」とした上で「青瓦台は国民の圧倒的支持に依存し、簡単に事を行ってはならない」と注意した。

野党三党は19日に予定されていた国会の常任委員会をすべてボイコット。追加予算案の審議や政府組織法の上程に加え、人事聴聞会までも全てストップし、国会は麻痺状態に陥っている。

対北朝鮮で制裁、対話、人権の「三兎」得られるか 米韓首脳会談が試金石

紆余曲折の末に就任した康京和長官だが、外交部の舵取りは簡単ではない。米中とのTHAAD配備問題、日本との慰安婦合意の問題など難題を抱えている。その上で、北朝鮮に対し、周辺国の歩調を揃える役割も積極的に担っていく必要がある。

北朝鮮と韓国の緊張間の緊張をいかにコントロールしていくかも大切だ。韓国は北朝鮮に対し「制裁と対話」の基調で一貫しており、統一部が人道支援、民間団体交流などを通じ北朝鮮に対し「対話攻勢」を仕掛けている。

対話には「国際社会の北朝鮮制裁の枠を損ねないかたちで」という条件がついているが、制裁に積極的に関わっていくのが外交部の役割となる。過去、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の2006年に北朝鮮が一度目の核実験を行った際、韓国が人道支援を続けたことで国際社会から非難を浴びた前例もあるため、慎重にならざるを得ないだろう。

その上で、北朝鮮の人権問題改善も同じ強度で議題に乗せていかなければならない。過去20年以上にわたり指摘され続けている北朝鮮の劣悪な人権状況は実質的な改善が求められるし、人権、民主不義は文在寅政権の核心的な価値でもある。

文在寅大統領
6月15日に開かれた「6.15南北共同宣言」17周年記念式典で祝辞を述べる文在寅大統領。北朝鮮に対し、対話の提案を行うと同時に、南北間合意の意志を示すよう要求した筆者撮影。

この点について、前出の康長官を良く知る人権団体関係者は、「国際人権基準、国連人権システムを熟知している康長官は、北朝鮮の人権、韓国内の人権に別の基準をあてはめる人権の『マルチスタンダード』を解消できる能力を持っている」と、さらなる説得力を持って北朝鮮人権問題に取り組むことに期待を寄せる。

康長官は、任命直後にグテーレス国連事務総長と通話し「韓国政府が北朝鮮の核・ミサイル問題の解決、北朝鮮の人権および人道的状況の改善などのために、国連側の支持と協力」をお願いし、事務総長側も「必要な助力を提供する」としている。

こうした脈絡で、今は目前(29~30日)に迫った米韓首脳会談をいかに成功させるかが康長官の実力を測る機会となる。文大統領の就任から50日も経っておらず「挨拶」の意味合いもある会談だが、南北対話姿勢を鮮明にしている韓国が、いかに米国側の理解を取り付け、共同歩調を見せつけることができるかが重要となってくる。

文大統領は野党との関係が悪化することを分かっていながら、康長官を強行任命する「リスク」を取った。康長官の評価が文大統領の評価になる一蓮托生の関係だ。「康京和外交部」がスタートした。

「追加挑発中断で対話」文大統領が北朝鮮側に提案 …「新たな対北朝鮮政策」との見方も




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