6月10日で発足一か月を迎える文在寅政権。国内政治では改革姿勢を鮮明にしているが、南北関係では手探りが続いている。主な動きをまとめた。(ソウル=徐台教)

南は「軟」で、北は「硬」で対応

この間の南北関係は大まかに「北朝鮮によるミサイル発射実験」と「韓国による人道支援再開」を軸に展開されてきた。

文在寅(ムン・ジェイン)大統領が就任した5月10日に、20年の歴史を持つ韓国の代表的な人道支援NGO(非政府組織)「わが民族相互支援運動」が韓国統一部に北朝鮮住民との「接触申請」を行った。

同団体のカン・ヨンシク代表は韓国メディアに「朴槿恵政府で中断した北朝鮮への人道支援および南北協力事業を再開するための意見交換」が目的だと明かしている。

韓国では、北朝鮮住民や政府機関との接触は事前に申請しなければならない。許可が出ると、ファクスやEメール、中国など第三国での接触が可能となる。なお「訪問申請」は別だ。

文在寅氏の大統領当選は当初から確実視されていたこともあり、就任に前後し、人道支援団体の動きは活発化していた。早くから中朝国境地域にわたり、支援準備を整えている団体もあった。

文政権の立場は明快だ。「北朝鮮に対し行われている国際制裁の枠を損ねない範囲での南北交流を行っていく。人道支援は制裁と関係がない」というものだ。この立場から、朴槿恵政権よりも積極的に人道支援を行う姿勢を見せている。

一方、北朝鮮側は5月14日に、射程4000キロを超える新型の中距離戦略弾道ミサイル(IRBM)「火星12」型の実験を行い「成功」(北朝鮮メディア)させた。新型という点がポイントで、これは韓国の新政府に対し「北は変わらない」ことを強烈にアピールしたと言える。

出鼻をくじかれた形の文在寅政権は強く反応した。政権発足後はじめてNSC(国家安全保障会議)を開催し「北朝鮮のミサイル発射は国連安保理決議に対する明白な違反であるばかりではなく、朝鮮半島はもちろん、国際平和と安全に対する深刻な挑戦行為と規定し、強力に糾弾する」とした。その上で「今回の挑発が韓国に新政府が発足し数日も経たない時点で行われたという点で、北の無謀な挑発に深い遺憾の意を表すと同時に厳重に警告する」と畳みかけた。




ミサイル「連発」にもめげず

翌週の21日、北朝鮮は中距離弾道ミサイル「北極星2」型の発射実験を行い、一歩も引きさがらない姿勢を明確にした。

しかし、ここで韓国側の態度に変化があった。前回と同じく青瓦台の外交安保室長がNSCを主宰したものの、文在寅大統領は出席せず、北朝鮮を糾弾する声明も外交部から発表されるなど一歩引いた「懐の深さ」を見せた格好となった。

続く26日に韓国の統一部は、前出の「わが民族相互支援運動」の北朝鮮住民との接触申請を許可した。2016年1月6日に北朝鮮が4度目の核実験を行って以降、中断されていた南北交流が約400日ぶりに再開されることとなった。

しかし北朝鮮側は翌27日に地対空誘導ミサイル「KN-06」型を発射、続く29日にも改良型スカッドミサイルの発射実験を行うなど、強硬な姿勢を崩さなかった。一方、韓国は31日に「6.15共同宣言実現南側委員会」による「接触申請」を許可している。

「6.15南北共同宣言」とは、2000年6月15日に韓国の金大中(キム・デジュン)大統領と北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)国防委員長が平壌で会談した際に発表された宣言のこと。

[全訳] 6.15南北共同宣言(2000年6月15日)

同宣言は1972年の「7.4共同声明」、91年の「南北基本合意書」を受け継ぐもので「統一問題を民族同士で自主的に解決」し「経済協力と南北協力を活性化」する点を骨子にしている。韓国の進歩派の象徴的な立場だ。2007年の「10.4宣言」にも受け継がれ、現在までも有効な内容だ。

[全訳] 7.4南北共同声明(1972年7月4日)

[全訳] 南北基本合意書(1992年2月19日発効)

[全訳] 10.4南北首脳宣言(2007年10月4日)

その後も文在寅政権は次々に北朝鮮住民との「接触許可」を下した。6月5日までに、15件が許可されている。内訳は人道支援団体が4件、宗教団体が6件、文化・スポーツ団体が2件、統一運動団体が2件、非公開国際会議への参加1件となっている。




ミサイル以外の分野でも 北はさらに強硬に

積極的な韓国側の態度により、南北交流が再開される見通しが高まったが、そうはいかなかった。

今月5日、前出の「わが民族相互支援運動」のカン・ヨンシク事務総長は韓国メディアに対し「北朝鮮側が6月2日に行われた国連安保理での対北朝鮮制裁の決議と、これに対する韓国政府の態度を問題視した。マラリア防疫物資の搬出と代表団の北への訪問を当面延期することにした」と明かした。

同団体は当初、7日にも陸路を通じて開城に支援物資を送る予定だった。10日には現役国会議員を含む代表団が平壌を訪問する予定もあった。北側から送られてきたファクスには「今後また協議しよう」という内容があったが、事実上の無期限延期だ。

また、同じ日に宗教団体にも「拒否」の通知が届いている。理由はやはり「国連安全保障理事会での対北制裁決議を韓国が積極的に支持したこと」であった。

なお、ここで北側が触れている国連の制裁とは6月2日(現地時間)、米ニューヨークの国連本部で開かれた国連安全保障理事会で採択された「安保理決議2356号」のこと。北朝鮮による度重なる弾道ミサイル発射実験を受けてのものだ。

中国、ロシアを含む15か国の理事国が前回一致で賛成した制裁内容には、北朝鮮の資産凍結、旅行制限というミサイル・核開発を封じ込める内容が主となった。新たに「コリョ銀行」や「戦略ロケット司令部」など4機関と貿易会社や党で対外経済に関わる個人14人が「ブラックリスト」に登録された。

北朝鮮側は文政権に対する攻勢を相次いで行った。7日には北朝鮮の祖国平和統一委員会の関係者が平壌でAFP通信のインタビューに対し「離散家族再会の提案に先駆け、北朝鮮レストランから脱北した12人と、北朝鮮への帰国を求める女性1人の計13人を即刻北朝鮮に返すよう」要求した。

北朝鮮側の強硬な態度は、8日のミサイル発射でも再確認された。8日朝、東部の元山(ウォンサン)で短距離地対艦巡航ミサイル「KN-01」を発射した。




それでも韓国は原則を維持

こうなるとさすがに韓国政府も強い対応を取らざるを得なくなった。同日午後、文在寅大統領は就任後はじめて直接NSCを主宰した。文大統領はこの席で「韓国政府は国民の安全に関し一歩も引いたり妥協しない」とし、「制裁と対話を並行しながら完全な北朝鮮の核廃棄に向けて揺るぎない努力を続けていく」と明言した。

その上で北朝鮮に対し「今すぐ核とミサイルによる挑発を止め、朝鮮半島の平和と南北間の共同繁栄のために非核化の道に踏みだすべきだ」と要求した。

続く9日に「6.15共同宣言実現南側委員会」は記者会見を開き「6.15南北共同宣言記念行事の平壌での共同開催は不可能になった。南北で各自に行事を行う」と明かした。

だが、統一部では原則を維持している。9日午前に行われた定例会見で「現在の南北関係断絶は朝鮮半島の安定などを考慮した場合、望ましくないため、民間交流など南北関係の主要事案に対しては北朝鮮制裁の枠を毀損しない範囲で持続するという立場に変わりはない」との立場を強調した。

想定内での動き 南側を評価

文在寅政権発足後の過去一か月は南北がお互いを探り合う過程であったと言っていい。見てきたように双方の立場は平行線であるが、当初から分かっていたことだ。これをもって今後5年間を占うのは早計だ。筆者は文政権の対応を評価したい。

理由は南北関係における「韓国側の懐の深さ」を示すことに成功しているからだ。度重なる北朝鮮のミサイル発射実験に関わらず、南北交流活性化の原則を事あるごとに表明するのはナンセンスに見えるかもしれない。だが、対決姿勢を鮮明にすることで取返しの付かない次元まで緊張が高まる可能性が少しでもあることを考える場合、まず要求されるのは「環境の管理」であることは自明だ。

ただ、憂慮するのはそれが「甘さ」となる兆候が見え隠れすることだ。韓国の立場は「人道支援はあくまで弱者のためのもの」(青瓦台)としている。しかし一方で「人道支援を通じ北朝鮮側の態度の変化をねらう」(統一部)とも明かしている。矛盾とまでは行かないが、気がかりな表現ではある。

たしかに「経済交流や支援を通じ北朝鮮側の長期的な変化を導く」というのは太陽政策の根幹であり、「6.15宣言」と「10.4宣言」を継承する文政権としては当然の立場かもしれない。だが、この部分での表現はより慎重であるべきではないだろうか。安易な表現が続けざまに政権側から出ることに対し、匿名を希望した政権寄りのある北朝鮮専門家は「アマチュア的に見える」とまで苦言を呈している。

当選後60日にわたって設置され、人事を決める「政権引き継ぎ委員会」が無いまま、ぶっつけ本番の政権運営にならざるを得ない文政権は苦しい運営が続いている。政権発足から一か月が経ったが、未だに統一部長官の人選は発表されておらず、康京和(カン・ギョンファ)外交部長官候補の任命も野党の強い反対から不透明なままだ。

この状態で南北関係のロードマップを決めるのは難しく、文政権は国内での改革姿勢とは異なり、南北関係でそのポテンシャルを発揮していないと見るのが正しいだろう。今は我慢の時といえる。政権全体で一致した立場を保持しつつ、各部署が専門性を生かす態勢づくりが急がれる。政権発足後約100日となり「光復節」でもある8月15日の「メッセージ」を持って、本格的な南北関係がスタートすると見るのが妥当だ。




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