韓国の統一部次官に、南北対話における豊富な実務経験と識見、人望を兼ね備えた「エース」が就任した。今後、南北対話の進展を目論む新政権の強い意志の表れと見ることができる。人物像をまとめた。(ソウル=徐台教)

20年以上の南北会談実務経験

1日午後、ソウル市内の政府中央庁舎で千海成(チョン・ヘソン、52歳)統一部次官の就任式が行われた。前日5月31日にあった次官人事を受けてのものだ。

千海成統一部次官就任式写真
6月1日、千海成(チョン・ヘソン)統一部次官の就任式が行われた。下段中央が千次官。写真は統一部フェイスブックより引用。

ソウル出身の千氏はソウル大法学部卒業後、1986年に行政考試(30期)に合格。いわゆるキャリア官僚として統一部の前身の国土統一院に入り、主に南北対話に関する業務に携わってきた。内外の評価は非常に高く「統一部最高の政策通」(聯合ニュース)とされる。

統一部だけでなく、青瓦台(大統領府)での勤務経験も長い。

金大中(キム・デジュン)政権下では外交安保首席室所属の行政官として、2000年6月の歴史的な南北首脳会談の実務に関わる一方、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権下では2003年から2006年まで国家安全保障会議(NSC)の政策調整室に所属した。その後統一部に戻り、07年10月の盧大統領訪朝時には統一部南北会談本部・会談企画部長として会談の成功を支えている。

李明博(イ・ミョンバク)政権になってから金・盧時代とは政策が一転し南北関係が悪化したが、それでも重用され続けた。2009年5月から約2年半の間、統一部の顔とも言える報道官を務めている。




北朝鮮の最高幹部とも面談

朴槿恵(パク・クネ)政権下でも、発足直後の2013年6月に南北実務会談の韓国側代表として参加するなど、やはり南北の会話には欠かせない人物であった。

2014年10月の仁川(インチョン)アジア大会閉幕式に北朝鮮の黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長、崔龍海(チェ・リョンヘ)朝鮮労働党書記、金養建(キム・ヤンゴン)同統一戦線部長(いずれも当時)が「電撃訪問」した際にも、韓国側の代表団に名を連ねている。

2013年南北当局間実務会議写真
2013年6月9日と10日に行われた南北当局間実務会議で韓国側代表を務めた千海成統一部統一政策室長(当時)。右は北朝鮮の金聖恵(キム・ソンヘ)祖国平和統一委員会部長。統一部ホームページより引用。

だが、「対話型」の官僚として、南北関係が最も冷え込んだ朴政権下では不遇をかこった。2014年2月、統一部の統一政策室長だった千氏は青瓦台の国家安保室・安全戦略秘書官に任命されたが、わずか数日で撤回され、統一部に戻る不可解な人事があった。

当時、統一部側が「不可欠の人材である」として呼び戻したとされるが、軍人出身の金章洙(キム・ジャンス) 国家安全保安室長など対北朝鮮強硬派との間に距離感があったためとされる。

その後、南北会談本部を経て同年12月から再度、統一部で要職の統一政策室長を務めた。2016年7月から就任直前までは、統一部傘下機関の南北交流協力支援協会の会長を務めていた。




「北に間違ったメッセージ」南北対話には慎重な態度を崩さず

千次官は1日の就任式の席で「統一部は北朝鮮核問題を解決し、朝鮮半島の平和を定着させ、南北関係を正常化し平和統一を推進する重大な任務を遂行しなければならない」と、今後のビジョンを提示した。

千海成統一部次官写真
就任の辞を述べる千海成次官。理性的かつ温和な性格でも知られる。写真は統一部フェイスブックより引用。

また「統一部は『統一』という新しい未来を追求する部署。このために新しく創意的な代案を作るよう努力しなければならない」と革新を約束した。

興味深かったのは「多様な国民たちの声を傾聴し、これを政策に積極的に反映させなければならない。メディアともより緊密に意思疎通をするべき」という点だ。「民間の組織にいた期間」に必要性を実感したとするが、南北対立が深まった李・朴政権下で委縮し切っていた統一部が今後、どんな姿に変わるのか期待を持たせるものだ。

一方で、「状況はいぜんとして困難で厳重を極めている」というシビアな現状認識も披露した。

聯合ニュースによると、千次官は就任会見後の記者会見で「対話が大変に難しい時期であるのは明らかだ」としたという。その上で「南北対話は北朝鮮の態度を見ながら慎重に進める方がよい。対話を急ぐと北朝鮮に間違ったメッセージを与える可能性がある」とし、「挑発と核の脅威に対しては断固として対処し、国際社会と強調して必要な制裁と圧迫を行っていく」と語った。

さらに「制裁と圧迫だけで問題を解決できないため、必要ならば対話と接触をしていくのが正常な状況ではないか」と抱負を明かしたとのことだ。




対話重視の流れは当分続く見通しも、問題は山積

文在寅大統領は大統領選当時の公約の中で「南北関係を立て直す」ことを掲げ、過去、北朝鮮とのあいだで行われてきた「合意」を継承し、その延長線上に「新しい合意を導き出す」としている。

文在寅大統領の南北関係プランは「テーブル総乗せ」方式か 公約から読み解く

統一部長官がまだ決まっていない中で、次官に「対話のプロ」が就任したことは象徴的だ。どの部署もそうだが、統一部の場合も実務は次官が統括し、長官は大統領と近い学者や政治家が務めるのが常であることを考えると、文大統領は今回の人事を通じ「対話重視路線」を明確にしたと見てよい。

統一部の職員も歓迎する雰囲気だ。匿名を要求した統一部の中堅幹部は「実力、人望ともに最高だという評価が定着している人物であるため期待が高い」と筆者に語った。

現在、統一部では職員がメディアとの接触することを固く禁じているという。文政権発足後も北がミサイル発射実験を三度も行うなど緊張が続く中で、統一部だけが対話路線を鮮明にすることで突出し、世論の批判を浴びることを極度に恐れている。

こうした雰囲気を今後、どのように変えていくのか。まずは6月15日の南北首脳会談記念日をどう「料理」するのかが、新政権並びに千次官の腕の見せどころになるだろう。

千海成(チョン・ヘソン)統一部次官 プロフィール

千海成統一部次官
千海成統一部次官。写真は青瓦台提供。

1964年8月15日生。ソウル出身。ソウル大法学部、ソウル大行政大学院修士。
1988年5月~ 南北対話事務局、教育広報局、南北会談事務局など
1996年7月~ 青瓦台外交安保首席秘書官室行政官、統一部政策企画課長など
2003年3月~ 国家安全保障会議(NSC)政策調整室政策担当官、統一外交安保政策室行政官
2006年3月~ 南北会談本部会談運営部長、会談企画部長、人道協力局長
2009年5月~ 統一部報道官
2011年11月~ 南北会談本部常勤会談代表
2012年6月~ 統一部統一政策室長
2014年2月~ 南北会談本部本部長
2014年12月~ 統一部統一政策室長
2016年7月~ 南北交流協力支援協会会長
2017年6月~ 統一部次官

千海成統一部次官 就任辞全訳(2017年6月1日)

統一部の家族のみなさん、お会いできてうれしいです。
10か月ぶりでしょうか。

私の故郷とも言えるここ、統一部に今日また戻ってきて皆さんに会うことになり、感激がひとしおです。足りない点が多い私が、文在寅政府はじめての統一部次官に任命され、大きく重い責任感を感じます。

まず、前任の金炯錫(キム・ヒョンソク)次官の労苦に対し感謝の意を捧げます。

金次官は困難な時期に統一部をよく率いてくれました。今後も統一部と常にいらっしゃることを信じています。重ねて、その間任された職務を誠実に遂行してきたすべての同僚職員にも感謝の礼を伝えます。皆さんが共にいてくれたこそ、私がこの場に立っていると思います。

職員のみなさん、文在寅政府では統一部は北朝鮮核問題を解決し、朝鮮半島の平和を定着させ、南北関係を正常化させ平和統一を推進する重大な任務を遂行しなければなりません。

大統領が公約された通り、「強くて平和な朝鮮半島」を作るためには、統一部の職員の皆が能動的で主導的な姿勢で対北政策を推進しなければなりません。

私たち皆の認識と思考の転換が必要だと思います。心機一転する姿勢が必要です。

皆さんもご存知のように、統一部がより積極的で能動的な役割を果たすべきという要求が内外にあります。自信をもって業務に臨んでくださるようお願いします。

統一部職員のみなさん、私たちは分断の現実を打破し、「統一」という新しい未来を追求する部署です。このために私たちは熾烈に悩みながら新しく創意的な代案を作るよう努力しなければなりません。

多様な国民たちの声を傾聴し、これを政策に積極的に反映させなければなりません。メディアともより緊密に意思疎通をするべきです。私は民間の組織にいた期間、こうした必要を深く実感しました。

さらに、国会はもちろん、関連部署、専門家たちとも積極的に協力する必要があります。より開かれた姿勢で情報を共有し、意見を交わさなければなりません。私たちがまず協力する姿を見せなければなりません。また、関連国とも緊密に意思の疎通をする必要があります。

朝鮮半島の問題、統一の問題はよくご存知のように民族内部の問題であると同時に、国際問題でもあります。より広い視野を持って積極的にわれわれの立場を知らせ協力しなければなりません。

統一部職員のみなさん、状況は依然として困難で厳重を極めています。今後、私たちが進むべき道はどんな前例もない新しい道にになるでしょう。統一部の職員みながこうした道を共に歩む同伴者、同志とならなければなりません。

困難と失敗を超えることができる態度、そして積極的な姿勢が必要です。私は皆さん一人ひとりが思い切り力量を発揮できるような要件と環境を作ることに最善の努力を傾けます。

対話と疎通を通じ、職員の皆さんとわが統一部の困難を解決していきます。すべての職員がやりがいを持って仕事ができる統一部となる時、南北関係の発展も、朝鮮半島の平和と統一もより一層近づくことと思います。皆さん全ての健勝を祈ります。ありがとうございます。




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