昨年10月末から20週連続で行われ、その圧倒的なパワーで朴槿恵政権を引きずり下ろした「ろうそくデモ」。当初からデモのインフラ作りに尽力してきたNGO(非政府組織)の連合体が、その役割を果たしたとして解散した。(ソウル=徐台教)

「朴槿恵政権退陣・非常国民運動」は何をしたか

24日午前、ソウル市内で「朴槿恵政権退陣・非常国民運動(以下、退陣運動)」の解散式が行われた。「退陣運動」は全国の2000以上のNGOが集まった、韓国史上例を見ない連合体だ。

「朴槿恵政権退陣・非常国民運動」解散式
5月24日、ソウル市内で開かれた「朴槿恵政権退陣・非常国民運動」の解散式。横断幕には「ろうそくと共に過ごした全ての日が幸せでした。世の中を変えるろうそくは続きます」とある。筆者撮影。

昨年11月9日に「4.16連帯(セウォル号沈没の真相究明を求める団体)」、「市民社会団体連帯会議(韓国のNGO最大の連合体)」、「民衆総決起闘争本部(大規模デモを組織してきたNGO連合)」など、既存の団体が力を合わせる形で組織された。

韓国では当時、国政監査やメディアの報道で朴槿恵大統領(当時)の40年来の親友・崔順実氏が国政に深く関与していた大スキャンダル「朴槿恵・崔順実ゲート」が強く追及されていた。

特に10月24日にはケーブルテレビ局の「JTBC」が、崔氏の朴大統領の演説文まで手直ししていた証拠となる崔氏のタブレットPCの中身を公開し、翌25日に朴大統領自身が国民向け謝罪会見を開く騒ぎとなっていた。

その週の週末の10月29日に「朴槿恵退陣」を求める一回目のろうそくデモが開かれ、約3万人がソウル市内に集まったのだった。そして翌週の11月5日は全国で30万人、さらに三回目となる11月12日には全国で110万人を集める巨大なデモに発展した。

100万人ろうそくデモ
昨年11月12日に100万人を集めたろうそくデモ。当時、このデモが朴槿恵大統領の弾劾、罷免、早期大統領選に結びつくと考えていた人は多くなかった。筆者撮影。

「退陣運動」は三回目のデモから正式に運営を受け持った。ステージ・音響などの設営から、オン・オフラインでの広報、ボランティアの募集・配置などソウル市との連携まで、100万人規模のデモに欠かせないインフラを整えた。

「退陣運動」の中心には、40万人超の会員を持つ韓国最大の労組連合体「全国民主労働組合総連盟(民主労総)」や、強い影響力を持つアドボカシー(政策提言)NGOの「参与連帯」などだった。いずれも20年の歴史を持つ団体で、その間蓄積してきたノウハウをいかんなく発揮した形だ。

実際、参加者が身ひとつでデモに行けるシステムは見事だった。ろうそくもプラカードも現場にいけばタダで手に入り、声を上げさえすればよい気軽さが最大で232万人(12月3日)の参加者を呼んだ秘訣といえる。




ろうそくデモには延べ1500万人以上が参加

この日「退陣運動」側が明かした統計によると、2016年10月29日から2017年4月29日まで23回行われたろうそくデモには、1,684万人が参加したという。これは「主催者発表」というあいまいなものではなく「地下鉄乗降客数の変化など科学的で合理的な推計」によるものだとしている。

11月当時から実際の参加者数について議論が行われてきたが、上記のように、ソウル市が提供する地下鉄乗降客数の前年比の数値や、携帯電話の通話増加量などのデータで、近似値が求められてきた。

なお、警察側は1月9日以降、デモの参加者数を発表していない。この時期、朴大統領の弾劾に反対する「太極旗デモ」が同じソウル市内で大規模に行われていたが、目視では明らかに参加者の数が劣る同デモの参加者を「ろうそくデモ」よりも多く発表したことに対し、批判の声が高まったことによる。

太極旗デモ写真
昨年12月9日に国会で弾劾訴追案が可決されて以降、勢いを増した「太極旗デモ」。軍歌をBGMに反共、反弾劾を訴えた。2月11日、筆者撮影。

また、「退陣運動」側は、2016年の12月28日から29日に「ソウル新聞」が行った世論調査も参考にしている。「保守層7名のうち1人が『ろうそくを持った』…進歩層では34%が参加」という記事から内容を引用してみる。

ろうそくデモに参加したと答えた回答者は全体の23.2%にのぼった。これを韓国の2016年11月現在の人口5168万人に代入すると、1199万人となる。これは10回目(12月31日)までの延べ参加者が1000万人を超えたという主催者(退陣運動)側の発表と近似している。

同様に、2月21日に別のリサーチ会社が行った世論調査では、32.4%がろうそくデモに参加したと答えている。こうした世論調査からも、1500万人超という参加者数が、誇張ではないと「退陣運動」は述べている。

総額約4億円 市民も寄付で支える

「退陣運動」の活動を支えたのは市民の募金だった。やはりこの日、「退陣運動」が明かした昨年10月29日から今年5月12日までの財政報告によると、募金総額は39億8315万7374ウォン。日本円で約3億9千万円という莫大な金額だ。

大規模デモの場合、ステージの設営などの費用も大きくなる。財政報告によると全23回のデモでかかったステージ・音響セット代だけで22億7000万ウォン(約2億2700万円)にのぼる。

 ろうそくデモステージ

ろうそくデモステージ
ろうそくデモには必ず大きなステージと、大きな中継用の設備、モニターが数か所設置された。写真はいずれも2017年のデモから。筆者撮影。

他にろうそくなどの物品購入に約1500万円、フェンス設置や移動式トイレのレンタル代に約4400万円、広報にも約1600万円がかかっているなど、デモのインフラ作りが大規模だったのかがよく分かる。

実は「退陣運動」は今年3月に資金難を告白していた。毎週行ってきたデモの費用がかさみ、約1億ウォン(1000万円)の借金を抱えたと明かしたところ、わずか5日で2万人以上が約12億ウォン(約1億2000万円)を寄付する「奇跡(退陣運動)」が起きたのだった。

いかにろうそくデモが支持されていたのかを示すエピソードといえる。




退陣運動幹部の所感「解散できて嬉しい」

この日の解散式には、「退陣運動」の中心を担った各NGOの代表たち約40人が出席し、所感を述べた。

パク・ソグン「韓国進歩連帯」代表は「1973年から学生運動をしてきたが、勝利で記録される闘争は40数年で初めて。朴槿恵大統領を退陣させることに成功して嬉しい」と語った。

また、著名なジャーナリストでもあるクォン・テソン「環境運動連合」共同代表は「今日こうやって解散でいるとは思ってもみなかった。これも全て市民の皆さんのおかげだ」と、謝意を述べた。

セウォル号三年集会
今年4月15日土曜日には、翌16日のセウォル号沈没三年を受け、記念集会が開かれた。横断幕には「皆で開く春、4月16日の約束」とある。筆者撮影。

一方、パク・レグン「4.16連帯」共同代表は「この場にセウォル号の家族がいたらもっと良かった」と全羅南道の木浦(モクポ)新港でセウォル号の船内捜査を見守る人々を気遣った。

アン・ジンゴル「参与連帯」事務処長は「目標を達成できたことは大きな成果と言える。だが、10月29日以前に闘ってきた人たちがいたからこそ、ろうそくデモがあったことも忘れてはならない」とした。

「シーズン2を」今後の運動方向も語る

この日の解散式は終始、和気藹々とした雰囲気で行われたが、今後の見通しを語る時には真剣な雰囲気に包まれた。

前出のパク・ソグン氏は「ろうそくの課題は依然として残っている。ろうそく革命の『シーズン2』が必要だ。一例として、来年の憲法改正が噂されるが、その過程が既得権勢力のものになってはいけない。国民が参加できるかたちになるよう、運動を続ける必要がある」と強調した。

パク・レグン氏も同様に「今後、どうしていくのかを設定する前に解散してしまうようで、心が重い。30年前の『6月抗争(全斗煥政権下で大統領直接選挙制を勝ち取った大規模なデモ)』で政治家に丸投げした結果、今日の事態に至ったことを忘れてはならない」と今後の活動を継続する重要性を述べた。

クォン・テソン氏もやはり「『シーズン2』は運動団体だけでは難しい。目覚めた市民と共に行動し、文在寅政権が成功するようにしなければならない」とした。これは「ろうそく革命」の結果誕生したのが文政権だということを、よく表している。

文在寅就任写真
大統領に就任した5月10日、青瓦台に向かう文在寅大統領。オープンカーに乗り、沿道の市民に手を振った。筆者撮影。

一方、チェ・ジョンジン「全国民主労働組合総連盟(民主労総)」委員長代行は「労働者の権利、労働の権利は継続的に追求されるべきもの。民主労総の要求が現文在寅政権に対する反対として映らないか憂慮する」と、進歩派政権との距離感の取り方に苦心する様子だった。

この日配られた資料によると、退陣運動は解散後も「ろうそく白書」の発行や、2017年11月の「ろうそく一周年大会」、そして「積弊清算」のための運動を支援していくという。そのために、残った予算の約7700万円を使うことをこの日明かした。




「退陣行動なくしてろうそく革命なし」

筆者は昨年11月当初から「退陣運動」を継続して取材してきた。記者の立場を維持しようと、最後までろうそくを手に取ることは無かったが、記者会見やデモの現場で「退陣運動」の人々を言葉を交わす中で、彼らの苦労を感じることが多かった。

「退陣運動」の中心を構成する団体は、いずれも韓国でもメジャーなNGOだ。その幹部たちが所属するNGOの仕事を投げ打って不眠不休で参加したため、安定した運営が可能になり、市民のパワーを最大限に高めることに成功した。一方で、ある幹部が所属するNGOでは、今年3月の時点でも年間計画がまっさらだったそうで、内部の不満も相当あったようだ。

この日、「退陣運動」のスポークスマンを務めてきたナム・ジョンス氏は「『退陣行動』無しには『ろうそく革命』はなかった」と感慨深げに振り返った。一見、大げさに聞こえるこの発言も、筆者は納得がいく。

退陣運動解散式写真2
「退陣行動解散声明ならびに積弊清算・ろうそく大改革要求記者会見文」を読み上げる。「民主主義と民生、平和と労働の権利が破壊される現場では常に国民と共にろうそくを掲げる。終わりではなく始まり」と語った。

とはいえ、興味深かったのは、デモの現場で市民が「退陣行動」をほとんど意識していなかったことだ。「退陣行動」の主張に共感するか聞くと「関係ない。朴槿恵に反対するために来ただけだ」と答える市民も少なくなかった。

いったん解散するのは、今後を考えた場合、大きなプラスになるだろう。文在寅政権は魔法使いの政権では無い。今後「ろうそくデモ」が掲げた理想―不平等の解消、人権の実現、福祉の強化、「ヘル朝鮮」の打破―とぶつかる場面が必ず出てくる。

その際に、市民がどう動くかは今の時点ではまだ見えない。だが、非暴力で包容的な「退陣行動」が作り上げてきた韓国の市民運動の新たな基準は、今後も韓国社会をリードしていくことになるだろう。それもまた「ろうそく」の成果といえる。




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